顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

10.明らかな怒り(モブ視点)

 アデルバに挨拶を済ませたルルメリーナは、前ウェディバー伯爵夫人カルメアと対峙していた。
 カルメアは、アデルバの隣で不機嫌そうにしている。彼女自身も望んでいたはずの息子の婚約者ルルメリーナに、カルメアは明らかに怒っているのだ。
 その理由は、ノルードにもわかっていた。先程から、ルルメリーナが出されたお菓子を遠慮なく頬張っているからだ。

「これ、すごくおいしいですねぇ」
「そうだろう。特上の菓子だ。喜んでもらえて嬉しいよ」
「お菓子をもらって喜んでもらえるなんて、幸せです」

 甘いものが好きなルルメリーナにとって、出されているお菓子はとても魅力的に映っていたのだろう。
 それを食べていいかと聞いて、アデルバが了承したため、彼女はずっとそれを口にしている。
 カルメアがその場に来ても、それはまったく持って止まらなかった。ある意味において図太いルルメリーナは、目の前の相手が不機嫌であっても、特に気にしたりはしない。

「ルルメリーナ様、そろそろご挨拶をした方が……」
「挨拶ぅ? あーあ、カルメア様、ご機嫌よう。ルルメリーナです」
「ご機嫌よう、ルルメリーナ嬢。随分とお菓子が気に入ったようですね?」
「あ、はい。これ、とってもおいしいですねぇ。あ、カルメア様も食べますか?」
「いえ、私は結構……」

 完全にタイミングを逃していたネセリアがやっとのことで指摘したことで、ルルメリーナはカルメアに余計なことを言いながらも、挨拶をした。
 それに対するカルメアの反応は、当然のことながら悪い。今にも大声を出しそうなくらいだ。

「ははっ、ルルメリーナ。君は本当に大物だな。やはり気に入った」
「……なっ」

 そんな中で呑気に笑っていたのは、アデルバであった。
 彼はルルメリーナの方を見ながら、うっとりとしている。完全に彼女に対して、惚れ込んでいるようだ。
 それを見て、カルメアは目を丸めている。これだけのことをしておいて、まったく持って尚ルルメリーナを愛おしく思う息子を、不思議に思っているのだろう。

「気に入っていただけたなら、嬉しいです。えっとぉ、そうでした。これから私は、こちらの屋敷で暮らすんですよねぇ?」
「ああ、そういうことになっている。正式に結婚することは年齢的に無理ではあるが、僕にはすぐにでも妻が必要だからな」
「私、アデルバ様を支えればいいんですよねぇ。任せてください。これでも結構、役に立つんですよぉ」

 アデルバとカルメアの前で、ルルメリーナは胸を張っていた。
 彼女が口にしているのは、ここに来る前に母親から言われたことだ。
 「あなたは結構役に立つから、自信を持って行きなさい」母親からのその言葉を確かな自信として、ルルメリーナはここにいるようである。
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