顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

13.二人の苦悩(モブ視点)

「早速で悪いのだけれど、ルルメリーナ嬢にはアデルバの補助に回ってもらいたいのです」
「補助ですかぁ? 何の補助です?」
「領主としての仕事の補助に決まっているでしょう」

 カルメアの言葉に、ルルメリーナは少し嫌そうな顔をしていた。
 彼女は感情が表情に出やすい方である。こればかりはどうすることもできず、ノルードはネセリアとともに悩むことになった。
 顔に出さないように言っても、それは効果などないだろう。それならば、その結果をフォローするべきだ。そう思ったノルードは、ネセリアと視線を合わせて頷く。

「そういう仕事って、あんまり得意じゃないんですよねぇ」
「……得意ではないとか、そういう問題ではないでしょう。伯爵家の夫人となるのですから、やるべきことをやっていただきたいのですが」
「やらないなんて、言っていませんよぉ」
「は?」
「ちょっと不安だっただけです」
「……っ!」

 ルルメリーナの言葉に、カルメアは今にも立ち上がって怒鳴りそうだった。
 しかし彼女は、隣にいるアデルバの表情を見て固まる。彼女の息子は、ルルメリーナを愛おしそうに見つめていた。

「何、心配することはない。誰だって最初は不安なものだ」
「そうなんですかぁ?」
「ああ、僕だって最初はそうだったのだから、君だってそうであるのだろう。気に病む必要などはない。多少の失敗など気にするな。僕がフォローする」
「わあ、ありがとうございます」

 息子と仲良く話しているのを見たからか、カルメアは何も言わなかった。
 そのことにノルードは安心する。そして悟った。カルメアが息子に甘いということを。
 それが弱点であることは、言うまでもない。それならそれを利用すればいい。ノルードとネセリアは、それを理解した。

「ルルメリーナ様、アデルバ様はとても頼りになる方であるようですね?」
「うーん。ネセリアの言う通りです。アデルバ様は、結構懐が広いタイプなんですねぇ」
「伯爵として、尊敬できる方です。そんな方の元に嫁げることは、やはり幸福なことであるでしょう」
「えー、それは――あーあ、そうですねぇ。ノルードの言う通りです」

 二人は、カルメアを牽制するための言葉を発した。
 ルルメリーナとアデルバの関係が強固になればなる程、彼女を抑え込むことができる。故に二人は、多少強引であっても主張したのだ。

 その結果、カルメアは不機嫌そうにルルメリーナから目をそらした。彼女のことを認めたくないが、息子が気に入っているなら仕方ない。そんな風に思っているのだろう。
 それを見て、ノルードはネセリアとともに安心した。ただ、これからも苦難は続く。それを悟ったノルードは、ため息をつくのだった。
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