顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

15.二人の弱点

「父上からの了承は得られた。イルヴァド、俺達はあなたに協力するとしよう……もちろん、そちらが提示することと次第によっては、そうはならないが」
「ええ、わかっています」

 お兄様は、お父様と話に行っていた。イルヴァドに協力してもいいか、それは流石に家長の許可なく決められることではなかったのだ。
 ただ、今回の件も恐らく決定したのはお母様だろう。体裁的にはお父様が家長ではあるが、ラスタリア伯爵家の実権を実質的に握っているのはお母様の方である。

「ただ、僕も勝算もなく母上や兄上と戦うつもりではありません。突くことができる点があるからこそ、今回の提案を持ち掛けたのです」
「突くことができる点、ですか?」

 イルヴァド様の言葉に、私は思わず声を出してしまった。
 突くことができる点、それはとても気になるものだ。あの二人の弱みを、イルヴァド様は何か握っているということなのだろうか。

「なるほど、それは興味深い事柄だ。内情を知るあなたならば、確かに我々にはわからないようなことを知っている可能性はある。ただ、後継者争いに打ち勝てる程に強力な情報なのか? それは相当なものであると思うが……」
「ええ、この情報は公表することができたなら兄上と母上を必ず追い詰めることができるものです。それ所か、僕自身も多少の風評を被ることになるでしょう」
「何?」

 イルヴァドの言葉に、私とお兄様は顔を見合わせた。
 同じウェディバー伯爵家の一員であるのだから、彼が少なからず影響を受けるのは当然のことではある。
 ただ、彼の言い方はどうももっと深刻であるような気がした。それは少し心配になってくる。その情報を明かして、本当に彼は平気なのだろうか。

「イルヴァド伯爵令息、あなたは一体何を知っているのだ?」
「……結論から言いましょう。兄上は父上の子ではありません」
「え?」
「彼は、母上が以前秘密裏に交際していた方との子供なのです」

 イルヴァド様の言葉に、私は固まっていた。お兄様でさえ、目を見開いている。それは、驚くべき事実であるとしか言いようがない。
 アデルバ様がオルデン様の息子ではないなんて、思ってもいなかったことである。

 ただもちろん、それはあり得ない話という訳でもない。
 目の前にいるイルヴァド様は父親似であるが、アデルバ様は母親似だ。考えてみれば、確かに彼からは父親の面影などは、あまり感じられないような気がする。
 仮に父親が別の人だとしても、納得することができない訳ではない。しかしだからといって、すぐに受け入れられることでもないのだが。
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