顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

19.ミスへの反応(モブ視点)

「ルルメリーナ嬢! これは問題ですよ!」

 ルルメリーナに対して、カルメアは大声を出していた。
 彼女の表情には、激しい怒りが現れている。それには流石に、ルルメリーナも怯んでいるようだ。

「武器の発注でミスするなんて、どういうことですか! あなたは数も数えられない愚か者ですか!」
「うう、すみません。悪気はなかったんですけどぉ」
「悪気があろうがなかろうが、こんな初歩的なミスをするなんて、あなたは一体今まで何を学んできたのですか!」

 ルルメリーナは、武器の発注の書類でミスを犯した。彼女は、百の発注を千としてしまったのである。
 それを見逃したノルードは、ルルメリーナに少し申し訳なさを覚えていた。ただ、ここは耐えてもらうしかない。
 ラスタリア伯爵夫人メルフェリナは、こういったことを娘に期待していたと、ノルードは理解している。彼女のこういった悪気がない行為によって、ウェディバー伯爵家をかき乱す。それはある意味において、とても厄介になる事柄であるだろう。

「まあまあ、母上、落ち着いてください」
「アデルバ?」
「ミスというものは、誰にでもあるものではありませんか。そんなに重く捉える必要があるという訳ではありません」

 そこでアデルバが、カルメアを宥めに入った。
 彼の表情は、母親と違ってとても柔らかい。本当に、まるで怒っていないというような感じだ。
 その表情を見て、ノルードは改めて悟る。メルフェリナの言っていたルルメリーナの魔性が、働いているのだと。

「あなた、何を言っているの? これは大変な過ちであることがわからないという訳ではないでしょう?」
「もちろん、間違いは間違いではありますが、母上は少し厳し過ぎます。ルルメリーナ嬢は、慣れない環境にやって来て苦手なことをしているのです。ここは大目に見てあげるべきでしょう」
「なっ……!」
「ルルメリーナ嬢、君は悪くない。よくやってくれているよ。母上の言葉はすまなかったな。僕の方から謝罪しておく」
「アデルバ様、優しいんですねぇ……でも、大丈夫です。私、気にしていませんから」

 かなり情熱的な視線をルルメリーナに向けるアデルバを見て、カルメアはその目を丸めていた。息子の言っていることが、信じられないということだろう。
 アデルバは、母親に対して少し怒っているとさえ感じられた。二人の間に軋轢が生まれている。ノルードはそれを察していた。

 一方で、先程まで怒られていたルルメリーナは気楽な顔をしている。
 彼女は一度怒られたからといって、凹むようなたまではない。そう思いながらノルードは、少し安心するのだった。
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