顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

2.余計な発言

「あなたは確か……」
「そこにいるルルメリーナの兄、ラヴェルグだ」

 令嬢に対して、お兄様は淡々とした言葉を返していた。
 ただ、妹である私にはわかる。お兄様は、とても怒っていると。

「そ、その手を離してください。無礼ですよ、いきなり手を掴むなんて……」
「それはあなたが、俺の妹に手を出そうとしていたからだ。こちらには正当な理由がある」
「別に私は、そんなことをしようと思っていた訳では……」

 令嬢の主張には、明らかに無理があった。あの状況で手を出すつもりがなかったなんて、信じられる事柄ではない。
 もちろんお兄様も、それはわかっている。しかしそれでも、手は離したようだ。

「それよりも問題は、あなたの妹ではありませんか?」
「俺の妹が、あなたに何をしたという?」
「この女は、私の婚約者を誘惑して取ったのです。さらにそのことについて、侮辱もしてきました。それらは許されることではないでしょう」

 令嬢は、自分がやったことを棚に上げてルルメリーナのことを批判していた。
 それに対して、お兄様は眉をひそめている。令嬢の言葉に、多分怒っているのだろう。
 ただお兄様は、それで喧嘩するような人ではない。きっとこの場は、穏便に治めてくれるだろう。その後どうなるかは、わからないが。

「お兄様? 私、侮辱なんてしていませんよぉ」
「なっ!」
「だって、私は悪くないですから。私、この人の婚約者に何もしていません」

 そこでルルメリーナが、非常に呑気な口調で口を挟んだ。
 このタイミングで口を挟むと、状況が悪くなる。そんなことを考えられるような子ではないので、思ったことをそのまま口にしたのだろう。
 当然のことながら、令嬢は怒っている。私はそれに頭を抱えていた。お兄様も、きっと困っていることだろう。

「わ、わかったでしょう! あなたの妹は、無礼極まりないと!」
「……いや、妹の言っていることは何も間違っていない」
「な、なんですって?」

 ルルメリーナの言葉を受けて、お兄様はその表情を強張らせた。
 その表情には、確かな怒りが現れている。お兄様はどちらかというとお母様似であるため、その鋭い目に令嬢は、少し怯えているようだ。

「妹は勝手に惚れられたというだけだ。あなたの婚約者が愚かだったということだろう。それで妹に当たるなど、あなたの品格が伺える」
「わ、私を批判するのですか?」
「客観的に物事を考えられていないということを、自覚してもらわなければならないようだな。今回の件を公表して、結論は社交界に委ねればいい。それで答えは見えてくるだろう」
「そ、それは……」

 令嬢は、お兄様の言葉に少し後退っていた。
 流石にどちらが有利かは理解しているのだろう。彼女は、お兄様から目をそらす。

「こ、これで勝ったと思わないでください」
「勝とか負けるとか、そういう話なんですかぁ?」
「最後まで忌々しい……」

 令嬢は、そのままルルメリーナに捨て台詞を吐いてから去って行った。
 ただ、妹は呆気からんとしている。どうやら今回の件も、まったく堪えていないようだ。
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