顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

21.得られた成果

「武器の発注ミスですか?」
「ああ、百を千だと間違えたようだ」

 お兄様から聞かされた事実に、私とイルヴァド様は顔を見合わせていた。
 ルルメリーナがウェディバー伯爵家で起こしたミス、それはなんとも初歩的なものだった。
 しかし、とても大きなミスである。百を千と多めに発注してしまったのだから、資金的にはかなりの打撃であるだろう。

「なるほど、ルルメリーナ嬢のそういったミスをラヴェルグ様やラスタリア伯爵夫妻は狙っていた訳ですか?」
「もちろんそれもあるが、重要なのはあなたの母親と兄のことだ。今回の件において、二人は真逆のスタンスであるらしい」
「真逆、ですか?」
「あなたの母親はルルメリーナを激しく責めたようだが、あなたの兄はルルメリーナを庇った。二人の間に、対立が生まれた訳だな」
「対立……」

 お兄様の言葉に、イルヴァド様は目を丸めていた。
 アデルバ様とカルメア様の対立、それは彼にとってはかなり驚くべきことであるようだった。
 それはなんとなく、わかるような気がする。私を追い返す時には、あれ程団結していた二人が対立するなんて、少し意外だ。

「珍しいことですね。あの二人が対立するなんて……」
「それが我々がルルメリーナに期待していたことだ」
「そうなのですか?」
「ああ、ルルメリーナはなんと言い表すべきか、男性を惹きつける性質がある。それを利用した仲違いこそが、重要なことだ」

 お兄様は少し表情を歪めて、言葉を発していた。
 恐らく妹に男性を惹きつける性質があるなんて、本当は言いたくないのだろう。
 しかしそれでも、イルヴァド様にはそう伝えるしかなかった。それは残念ながら、事実である訳だし。

「確かに、ルルメリーナ嬢は可愛らしい方ですからね。社交界でも人気であると聞いています。なるほど、兄上はまんまと誑かされているという訳ですか」
「誑かされているかどうかはわからないが、どちらにしてもウェディバー伯爵家が揺れているということは間違いない。それは我々、引いてはあなたにとっても良き知らせであるだろう」
「……そうですね。あの二人に隙ができた。それは重要な事実です」

 イルヴァド様は、お兄様の言葉に力強く頷いた。
 私達の目的から考えると、二人の結束力が弱まっているのは都合が良い。付け入る隙が、できたといえるだろう。

「こちらも動き出しますか?」
「いや、もう少し待つべきだろう。二人の仲違いも、決定的なものではない。今こちらが動き出したら、二人の結束力を強める結果になりかねない。もう少しルルメリーナが成果を出すのを待つとしよう」
「焦るのは禁物、という訳ですね。わかりました。それなら、そうしましょう」

 イルヴァド様は、お兄様からの返答をある程度予測していたのだろう。提案を否定されても、特に動揺したりはしていない。
 お兄様の方も、それはわかっているのだろう。少し嬉しそうに笑みを浮かべていた。
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