顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

２２．二人の口論（モブ視点）

「うーん……」

　ウェディバー伯爵家の執務室にて、ルルメリーナは居心地が悪そうな顔をしていた。
　それは当然といえば当然であるだろう。先程から、カルメアが不機嫌そうな顔をしながら彼女のことを睨みつけている。その視線が、気にならない訳がない。

「ルルメリーナ様、お茶をお入れしますね？」
「あ、ノルード、ありがとう」
「アデルバ様もいかがですか？」
「ああ、いただこう」
「……カルメア様もいかがでしょうか？」
「……まあ、もらっておこうかしら」

　ノルードが場を何とか和ませようとお茶を入れたが、それでも辺りの空気はヒリヒリとしていた。
　カルメアのルルメリーナに対する監視は、尚も続いている。彼女は、その釣り上がった目から生まれる鋭い視線を隠そうともしていない。

「……母上、いい加減にしたらどうなのですか？」
「……なんですって？」

　そんな母親に対して、アデルバが少し躊躇しながらも口を開いた。
　カルメアがこの執務室に来てから、彼の方もずっと不機嫌ではあった。それは先日のルルメリーナの失敗に対する認識の違いから、生まれたものであるだろう。

「僕は母上のことを尊敬していました。しかし、最近の母上の態度には疑問を覚えてしまいます。ルルメリーナが一度失敗したくらいで、なんだというのですか？」
「アデルバ、あなたはことの重大さがわかっていないのよ。彼女の失敗は、このウェディバー伯爵家に大きな打撃を与えたの。それをもっと強く認識しなさい」
「母上、今の当主はこの僕です。家長であるこの僕が、ルルメリーナの失敗を許容しているのです。それを一体、何様のつもりで覆そうというのですか？」
「なっ……！」

　アデルバの言葉に、カルメアは目を丸めていた。
　息子からの突き放すような言葉に、かなり驚いているようだ。彼女は眉をひそめて、アデルバのことも睨みつける。

「アデルバ、言っておくけれど、思い上がっているのはあなたの方よ。私は今までこのウェディバー伯爵家のことを支えてきたの。この私あってこそのウェディバー伯爵家なのよ」
「思い上がりも甚だしいですね。一体どの口でそのようなことが言えるのか……母上、あなたが何をしてきたのか、僕は知っているのですよ？　それを忘れてもらっては困ります」
「そ、それは……」
「これ以上、僕の決定に口を挟まないでください」
「……っ！」

　アデルバの言葉に、カルメアは悔しそうな表情をした。
　それに対して、息子は笑みを浮かべる。それはとても意地が悪い笑みだった。