顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

25.帰って来た妹

「お姉様、これを見てください」
「これって……」
「ま、まさか……」

 目の前に差し出された紙きれを見て、私とイルヴァド様は顔を見合わせることになった。
 妹であるルルメリーナが私達に見せている紙には、権利書と記されている。それはどうやら、ヴェレスタ侯爵家の領地に関する権利書であるらしい。

「アデルバ様が、私に渡してくれたんですぅ。あ、ちゃんと契約書もありますよぉ。これでお母様から言い渡された任務が、完了したってことでいいですよねぇ?」
「え、ええ……」

 ルルメリーナは、ウェディバー伯爵家に大きな打撃を与えたといえるだろう。それはお母様が計画した通りだ。
 しかし、これは流石に打撃を与え過ぎているというか、致命傷を与えているといえるのではないだろうか。これを握られたら、どの家だって終わりである。

 一体こんなものを契約書付きでどうやったら譲渡されるのか、それがまったくわからない――訳でもない。ルルメリーナなら、それが可能だ。
 私はよく知っている。ルルメリーナに惚れた男性が、どのようになるかということを。彼女のためなら何でもする。そんな感じで、身を破滅させるような人は何人もいたのだ。
 アデルバ様も、その一人だったということだろう。彼はなんとも、馬鹿だったようだ。

「嘘でしょう……?」

 ルルメリーナのことについて、私よりも詳しくないイルヴァド様は未だに目を丸めていた。
 理解が追いついていないといった感じだ。恐らく彼は、ルルメリーナの魅力に引っかかったりしないだろう。冷静に物事を考えられるタイプだ。
 協力関係にあるためか、その事実に私はなんだか安心できた。少なくとも、同じような手でイルヴァド様が身を破滅させるようなことはなさそうだ。

「えっへん。どうですか? お姉様、私のことを褒めてくださいますかぁ?」
「え、ええ、よくやったわ。流石はルルメリーナね……お母様やお兄様も褒めてくれると思うわ。というか、もう褒められてきたのかしら?」
「あ、はい。お父様にも褒めていただきましたよぉ」
「まあ、お父様は何でも褒めてくれるからね……」

 私はとりあえず、ルルメリーナの傍に寄って頭を撫でて褒めてあげた。
 イルヴァド様の前でこういったことをするのは、中々に恥ずかしいことではある。しかし成果を上げてきた妹を褒めるのは姉の義務だ。
 そもそもの話、イルヴァド様はまだ権利書の方を見て固まっている。多分、こちらの方などまだ意識できていない。その理解が追いつく間に、妹を褒めておくことにしよう。
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