顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

28.妹へのご褒美

「……なんとか話もまとまりましたよ」
「それはなんというか、お疲れ様です」

 小一時間程してから、イルヴァド様は私とルルメリーナがいる客室まで戻って来た。
 彼は明らかに憔悴している。恐らく、お母様やお兄様によって打ちのめされたのだろう。
 とはいえ、思っていたよりも彼の顔は明るいような気もする。想定していたよりも、手心が加えられたということなのだろうか。

「……それにしても、すごいですね」
「え? ああ、この甘い物の数々のことですか?」
「ええ、ちょっとしたパーティーのようですね? いつもこんな感じなのですか?」

 そこでイルヴァド様は、テーブルの上の様子について聞いてきた。
 現在そこには、ケーキやクッキーなどといったお菓子が並んでいる。それらがテーブルを埋め尽くしているという状況は、圧巻といえるかもしれない。
 それらは、私とルルメリーナのお茶会のために用意されたものだ。ただ当然のことながら、それらがいつも通りという訳ではない。

「もちろん、今日は特別仕様ですよ。これはいわば、ルルメリーナへのご褒美と言いますか……」
「ご褒美、ですか?」
「ええ、ルルメリーナは甘い物が好きなんです。普段は健康などを考慮して制限されているのですが、今回は作戦を成功させたということでお母様が大盤振る舞いしてくれたのです。ルルメリーナ自身は、お菓子をたくさん食べたいとお願いしたようですが……」
「なるほど……」

 私達の会話に耳を傾けることもなく、ルルメリーナはお菓子を次々と口に運んでいる。
 幸せそうなその表情には、私も思わず笑ってしまう。
 しかし実際の所、一つの伯爵家を追い詰めたご褒美として考えると、これは軽いとさえいえる。もう少しすごいお願いをしても、叶えてくれたと思うのだが。

「ということは、リフェリナ嬢はこれらに手が付けられないのですか?」
「いえ、ルルメリーナはそんな器が小さい子ではありませんから、私もいただきましたよ。でも、途中から胸焼けがして……別に甘い物が特別好きという訳ではないので」
「……まあ、それはそうですよね。僕なんて見ているだけで胸焼けしそうです」
「まあでも、イルヴァド様もどうぞ。ルルメリーナから許可はもらっていますから、好きなものを食べてください」
「……それならお言葉に甘えて、ショートケーキを一ついただきます」

 私の言葉を受けて、イルヴァド様はショートケーキを食べ始めた。
 結局彼が食べたのは、それだけだった。後は全て、ルルメリーナが平らげたのである。
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