顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

3.兄と妹と

「お兄様、助けていただき、ありがとうございます」
「いや、気にすることはない。お前も厄介な奴に絡まれたものだな……」
「やっぱりお兄様は、かっこいいですね」

 令嬢が去った後、ルルメリーナとお兄様は和やかな会話を交わしていた。
 そんな二人を見ながら、私はゆっくりとため息をつく。とりあえず場は収まった訳だし、私もそろそろこの場を後にするとしようか。

「さて……そろそろ出てきたらどうだ」
「え? お兄様、誰に言っているんですか?」
「先程から見ているのはわかっているぞ、リフェリナ」
「……ばれていましたか」

 お兄様に指摘されたため、私は出て行くことにした。
 するとルルメリーナは、目を丸めている。彼女の方は、まったく持って気付いていなかったようだ。

「お姉様? いたんですか?」
「ええ、その……随分と前から、成り行きを見ていたわ」
「タイミングとしては、俺と変わらないだろう。あの令嬢が手を上げた瞬間、動いたのが見えていたぞ?」
「あ、お姉様も私を助けようとしてくれていたんですねぇ」

 お兄様の言葉に、私は少しばつが悪くなっていた。
 あの時は、確かに動こうとしていた。ただあのまま動いていても、間に合っていたかは怪しい所だ。
 お兄様がいなかったら、ルルメリーナがぶたれていたかもしれない。それは私にとっては、非常に悔しい事実である。

「位置取り的に、俺の方が近かったからな。結果として、俺の方が早く出て行くことになったのだろう」
「あ、そうですよね。お兄様、私のすぐ後ろから出てきましたし」
「いえ、私の反応が遅かったというだけよ。あの令嬢が怒っているのはわかっていた訳だし、もう少し早く動くべきだったと思うわ」
「お姉様、そんなに私のことを考えてくれるなんて、嬉しいです」

 ルルメリーナは、私に対して羨望の眼差しを向けてきた。
 この妹は、そうやっていつも純粋に私のことを慕ってくれている。私もそんな妹のことを、大切に思っている。
 そういう意味では、私もルルメリーナに誑かされている一人かもしれない。しかし何はともあれ、私達姉妹、引いてはお兄様の仲は良好なのである。

「あの令嬢については、俺の方でまた対処しておくとしよう。ルルメリーナ、お前が気にする必要があることではない」
「え? 最初から気にしていませんよぉ?」
「……お前はそういう奴だったな」

 ルルメリーナは、お兄様の言葉にぽかんとしていた。
 基本的に、この妹はこういったことをまったく引きずらない。多分明日には忘れているはずだ。
 そういった能天気な所も、またあの令嬢のような人の神経を逆撫でするのだろう。それはなんとかしなければ、ならないことなのかもしれない。
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