顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

31.打開するために(モブ視点)

 アデルバは、父親が生前に懇意にしていたドナール侯爵の元を訪れていた。
 困った時には、彼のことを訪ねると良い。それは父親が残してくれた言葉の一つだった。
 王家からの疑い、それはウェディバー伯爵家の立場を悪くしている。その状況を打開するために、アデルバは侯爵家を訪問したのである。

「アデルバ、申し訳ないが、お前に協力するつもりはない」
「な、なんですって?」

 しかしドナール侯爵は、訪問を快く受け入れたものの、厳しい言葉を返してきた。
 頼みの綱であった侯爵からの思ってもいなかった言葉に、アデルバはひどく動揺していた。
 自分が何か無礼を働いたのだろうか。彼の頭には、そのような思考が過っていた。

「ドナール侯爵、僕が何かご無礼をしたでしょうか? 恥ずかしながら、特に覚えがないのですが……」
「お前自身に問題があるという訳ではない。問題があるとするならば……いや、これも問題とは言い難いことではあるが、ルルメリーナ嬢のことだ」
「ルルメリーナのこと?」

 ドナール侯爵の言葉に、アデルバは固まっていた。
 まさか婚約者の名前が出て来るとは思っていなかったからだ。

「ルルメリーナが、何をしたのですか?」
「何をしたということもでないが、娘の婚約者が彼女に惚れ込んでね。それで縁談が破談となったのだ。つい最近の話だ」
「破談……」
「もちろん、それは惚れ込んだ者に原因がある。勝手に惚れられたルルメリーナ嬢に非があるとは私も思っていない。ただ、今お前を助けるのはどうにも体裁が悪い。端的に言ってしまえば、そんなことをすると舐められる」

 ドナール侯爵の考えは、アデルバにも理解することはできた。
 自分を助けると、結果的にルルメリーナを助けることになる。それは婚約者を取られた上で、その原因となった令嬢を助けるということだ。
 ドナール侯爵としては、それは避けたいことなのだ。それはドナール侯爵家としての、プライドの問題なのだろう。

「せめて当初の予定通り、リフェリナ嬢と婚約していたなら話は別だったのだがな……」
「……それは、どういうことですか?」
「ルルメリーナ嬢は、確かに人気がある令嬢だ。対外的なことを考えて、婚約者にしたいと思う気持ちはわからない訳ではない。しかしそれは、短絡的な考えだったといえるだろう。彼女には敵も多いからな。我々のような縁談を破棄された者などがそうだ」

 アデルバは目を見開いて驚いていた。
 対外的な面において、ルルメリーナの存在は有利に働くとばかり、彼は思っていたからだ。
 しかし実情はそうではなかった。そのことにアデルバは、言葉が出て来なくなっていた。
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