顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

32.兄の見解

 ルルメリーナは、現在里帰りしているということになっている。
 ただ実の所、彼女はウェディバー伯爵家にある置き手紙を残している。それはアデルバ様との婚約を破棄するという旨の手紙だ。

「もっとも、手紙はウェディバー伯爵家に握りつぶされる可能性があるからな。父上が今、正式な文書を取りまとめている所だ。それで、ことは確実になるだろう」
「なるほど、それでやっと一安心ということでしょうか?」
「ああ、まあ、諸々の権利がこちらにある以上、ウェディバー伯爵家側がどう足掻いたとしても、無駄なことではあるのだがな……」

 お兄様は、苦笑いを浮かべていた。
 それは恐らく、ルルメリーナに権利書を渡したアデルバ様に対して、呆れているからだろう。
 その決定的な切り札がこちらにあるということは、勝負はもう終わっているということだ。あまりにも簡単な戦い過ぎて、お兄様もそんなに気は乗っていないのかもしれない。

「お母様は、こうなることをわかっていたのでしょうか?」
「さて、それはどうだろうな。あの母上でも、アデルバがここまで馬鹿な奴だとは思っていなかったかもしれないが……」
「でも、妙に自信がありそうでしたからね」
「まあ、ルルメリーナによって破滅した男が何人もいるのも事実だ。それらから今回のことを推測することはできたのかもしれない」

 今回の計画は、お母様が発案したものだ。
 ルルメリーナには、基本的にはいつも通りにしていればいいと、言っていたようである。
 ただチャンスがあったら、あちらにとって最も大切なものを譲り受ける約束を取り付けて欲しい。お母様は、ルルメリーナにそうお願いしていたそうだ。

「確かに、領地の権利などはアデルバ様にとって大切なものではあるのでしょうけれど……」
「ルルメリーナの信用を得るためには、それしかないと思ったのだろうな。そういった意味では、律儀な奴だといえる」
「考えようによっては、男らしいといえば男らしいですか……まあ、騙されているということに気付いていない時点で、儚い恋心だといえるのかもしれませんが」

 私はアデルバ様に、粘っこいという印象を抱いていた。
 そんな彼が気前良く権利書に関する契約をしたことには、やはり驚きである。それだけルルメリーナに入れ込んでいたということなのだろうが。
 しかしアデルバ様は、ルルメリーナのある一点を完璧に見誤っていた。基本的に家族思いである彼女は、私を侮辱した彼のことは絶対に受け入れはしないのである。
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