顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

40.気にかけていた理由は

「まさか、前ウェディバー侯爵が母上に好意を抱いていたとはな……」
「ええ、まったく思ってもいないことでした」
「まあ、俺達に伝えられるようなことでもないだろうしな。このような事件が起きなければ、父上も墓まで持っていっていたかもしれない」

 お父様から聞かされた事実について、私は改めてお兄様と話し合っていた。
 それらの事実は、驚くべき事実だったといえるだろう。私はまだ、冷静さを取り戻せていない。
 お兄様の方も、それは同じであるようだ。いつもと比べて、声が少し上ずっているような気がする。

「父上は否定していたが、前ウェディバー伯爵がお前のことを気にかけていたのは、母上に似ているからだったのだろうか?」
「それはどうなのでしょうね。イルヴァド様は、その可能性もあるかもしれないと、言っていましたが……」
「友と息子のどちらの言い分を信じるべきかは微妙な所だな」

 オルデン様は、私のことをずっと気にかけてくれていた。
 それに他意などがあったのか。それについて、お父様とイルヴァド様はそれぞれ異なる見解を示していた。
 お父様はそれを強く否定し、イルヴァド様は曖昧な言葉を返した。イルヴァド様の方は、その可能性はあると、暗に言っていたような気がする。

「そんな人ではないと、私は思うんですけどね」
「それについては、俺も同じ考えだ。前ウェディバー伯爵は、現ウェディバー伯爵のような愚か者ではなかった。尊敬できる方だったと思っている」
「でもそれらは、外から見たオルデン様なのですよね。イルヴァド様の方が信憑性は高いなんて、思ってしまいます」

 私達は所詮他人であるため、オルデン様の全てを知っている訳ではないだろう。
 イルヴァド様の方が、素の彼を知っていると思うのだ。親子の関係は良好だったらしいし、私達の知らないようなことを知っているかもしれない。
 そんな彼が言ったことの方が、信憑性は高い気がする。もちろん、付き合いが長いお父様の言い分も信憑性が低いという訳でもないのだが。

「……まあ、どちらということもないのかもしれないがな」
「え?」
「前ウェディバー伯爵は、お前が母上に似ているということも、その能力も含めて、息子の妻として迎え入れるべきだと考えたのかもしれない。人の感情というものは、そう単純なものではないだろうからな。どちらも入り混じっていたとする方が、俺としてはしっくりくる」
「……そうかもしれませんね」

 お兄様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 オルデン様がどのように思っていたのか、それは最早誰にもわからないことだ。
 ただ、彼がどう思っていたとしても、カルメア様の行いを許せる訳でもない。私達は、彼女とアデルバ様を叩く。それは決定事項なのだ。
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