顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

46.彼女の怒り

「失礼しまーす」
「あら……」

 アデルバ様が言葉を詰まらせていると、部屋の中に高い声が響いた。
 その直後、部屋の中にルルメリーナが入って来る。するとアデルバ様の表情が、明らかに変わった。

「ルルメリーナ!」
「あれ? アデルバ様、どうしたんですかぁ? そんな顔をして」

 激昂するアデルバに対して、ルルメリーナはとても呑気な言葉を返していた。
 それは私にとって、少し意外な反応である。ルルメリーナは基本的に相手の怒りには怯えるタイプだ。煽るようなことは言っても、その態度は萎縮している。
 しかし今は、思いっきり煽っているような気がする。それはつまり、彼女がアデルバ様に対して、強い怒りを感じているということなのかもしれない。

「お前……僕をずっと騙していたんだな! 僕のことを愛しているんじゃなかったのか!」
「えっとぉ、私、多分そんなことは一回も言ってないと思うんですけどぉ」
「な、なんだと?」

 ルルメリーナの言葉に、アデルバ様はゆっくりと目を見開いた。もしかしたら、今までのことを思い返しているのかもしれない。
 恐らく、妹は彼に対して本当に愛しているなどとは言っていないだろう。
 あれでもルルメリーナは、それなりにロマンチストだ。例え嘘であっても、愛を口にしたりはしないだろう。

「大体、私がアデルバ様のことを好きになる訳、ないじゃないですかぁ」
「な、何故だ?」
「だって、アデルバ様はお姉様のことを侮辱したじゃないですか。家族を侮辱するような人を好きになるはずがありませんよねぇ?」
「な、なんだって?」

 アデルバ様は、私とルルメリーナの顔を交互に見ていた。
 彼は私達姉妹の仲というものを知らなかったのだろうか。もしかしたら、勝手に険悪などと思っていたのかもしれない。
 実際の所、私とルルメリーナの仲は良好だ。私もルルメリーナへの侮辱には不快になる。それが不当ならものなら猶更だ。

「ルルメリーナ嬢、兄上はきっと自分が弟と仲が悪いから、相手もそうだなど思ったのでしょう」
「えー、そうなんですかぁ? それはなんだか、可哀想ですねぇ」
「可哀想だと……?」
「でもごめんなさいね、私、アデルバ様と結婚とか絶対に無理です。それだけは勘違いしないでくださいね……不愉快ですから」
「あ、なっ……」

 ルルメリーナは、とても冷たい視線をアデルバ様に向けていた。
 そんなのは初めて見る。どうやら彼女は今回の件で、かなり怒っていたようだ。もしかしたら家族の仲でも、一番怒ってくれていたのかもしれない。
 そんな彼女の視線を受けて、アデルバ様はゆっくりと項垂れた。一時とはいえ好きだった相手に否定されることは、流石に堪えたようだ。もっとも、同情の余地なんてものはないのだが。
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