顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

50.戦いの理由は

 私は、お父様の執務室に来ていた。
 そこには、お母様やお兄様がいる。私が訪ねた時、偶然居合わせたのだ。
 せっかくなので、私は三人に何かしたいと言ってみることにした。今回の件で自分がほとんど何もできていないことも含めて、打ち明けたのである。

「もちろん、リフェリナがそうしたいというなら、何かしてもらうのもいいかもしれないね。ただ、一つだけ言っておかなければならないことがある」
「はい、なんですか?」

 お父様は、私の目を真っ直ぐに見つめてきた。
 その力強い視線に、私は少し怯んでしまう。何か大切なことを言われる。それはなんとなく理解することができた。

「今回の件で、君が何もしていないというけれど、それは当然のことだよ」
「当然のこと、ですか?」
「今回の戦いが、どうして始まったのか、リフェリナは覚えているかな?」
「えっと……」

 お父様の言葉に、私は少し考える。
 ウェディバー伯爵家との戦い、それは一体何が始まりだったのだろうか。
 それは明白だ。私との婚約、それが発端である。

「私が婚約によってウェディバー伯爵家に行って、そこで侮辱されて帰って来たからですよね?」
「ああ、つまりこの戦いは、リフェリナの敵討ちともいえるものだったという訳だ」
「敵討ち、ですか……?」
「それは僕達が勝手にやったことでしかない。下らないプライドとでもいうのだろうか。僕達は君のことを侮辱したウェディバー伯爵家を許せなかった」

 お兄様とお母様は、お父様の言葉にゆっくりと頷いた。
 私の敵討ち、それは今までそこまで意識していなかったことだ。単純に、ラスタリア伯爵家への侮辱に対して、貴族として報復しているものだとばかり思っていたからである。

「つまり僕達は、娘のために、あるいは妹のために、またあるいは姉のために、戦おうとしていたんだ。君に何かして欲しいなんて、思ったことはないよ。むしろ君のことは、巻き込みたくなかったくらいだ」
「……」
「リフェリナ、君は優しい子だ。そして同時に、ラスタリア伯爵家の令嬢としての誇りを持っている。僕は父親として、君のことを誇りに思っている。だからこそ、君を侮辱した二人が許せなかったんだ。それが例え、親友の妻と息子だったとしても、ね」

 ゆっくりと言葉を紡いだお父様に、私は息を呑むことになった。
 両親やお兄様、ルルメリーナがそんな風に思っていてくれたことは、私にとって嬉しいことだったからだ。
 私は家族に恵まれている。それを改めて自覚した私は、思わず笑みを浮かべるのだった。
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