顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

52.疲れた謁見

 私は、イルヴァド様とともに王城の客室に通されていた。
 とりあえず、国王様と話はついたと思っていいだろう。これでイルヴァド様も、無事にウェディバー伯爵家を継げるはずだ。

「ふう……やはり疲れるものですね」
「まあ、それはそうですよね」

 イルヴァド様は、ソファの上で天を仰いでいた。
 その表情からは、疲れが伝わってくる。やはり彼も、緊張していたということだろう。

「でも、堂々とされてしましたよ?」
「そうでしょうか? そう思ってもらえたなら、頑張った甲斐もあったというものでしょうかね……」
「特に何もしていない私でさえ、緊張しましたからね。本当によく頑張りましたね……なんて、少し上から目線でしょうか?」
「いいえ、褒めてもらえるのは普通に嬉しいですよ」

 イルヴァド様は、ゆっくりと姿勢を正していた。
 気を抜くのは、もうやめにしたようだ。それは良い判断であるだろう。ここが王城の客室である以上、完全に気を抜く訳にはいかないのだから。

「さてと、リフェリナ嬢とも今後のことについては話し合っておかなければなりませんね」
「今後のことですか?」
「ええ、お陰様で僕はウェディバー伯爵家を継ぐことができそうです。そのことについては、本当に感謝しています」
「いえ、私は何もしていませんから」
「そんなことはありません。リフェリナ嬢がいたから、僕はラスタリア伯爵家で楽しく暮らせていたのですから」

 私は、イルヴァド様の言葉に少しだけ固まってしまった。
 思えば、彼ともそれなりに長くともに暮らしていたものである。その日々はなんだかんだ言って、楽しいものだったと思う。
 それがもうすぐ終わってしまうということに、私は一抹の寂しさを覚えていた。イルヴァド様も、私は既にラスタリア伯爵家の家族の一員のように、捉えてしまっているようだ。

「寂しくなってしまいますね……」
「それは……そうですね。僕はウェディバー伯爵家に帰っても一人ですから、猶更そう思ってしまいます」
「イルファド様……」

 イルファド様は、苦笑いを浮かべていた。
 アデルバ様とカルメア様の二人は、ウェディバー伯爵家から追放されることになるだろう。彼は孤独に伯爵家を背負うことになるのだ。それはきっと、辛いことだろう。

「まあ、頑張りますよ。せっかく皆さんが守ってくれたウェディバー伯爵家ですからね」
「……」

 ラスタリア伯爵家と違って、イルファド様の戦いはこれからも続いていくのだ。
 それを悟った私は、何も言えなくなってしまうのだった。
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