顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

53.国王の前で

 国王様の前で、一組の男女は跪いている。
 その二人に国王様は、鋭い視線を向けている。それは私やイルファド様が謁見した時とは、まったく異なる態度だ。威厳に溢れている。
 やはり私達の前では、ある程度手心を加えてくれていたのだろう。もしかしたら国王様なりに、イルヴァド様への同情などもあったのかもしれない。

「さて、アデルバにカルメア、お前達には伝えておかなければならないことがある」
「……な、なんでしょうか?」
「お前達二人は、この国に仇をなしたということだ。アデルバ、お前はウェディバー伯爵家の血筋を偽り、伯爵を継いだ。カルメア、お前はそれを黙認していた。それは間違いないか?」
「そ、そんなことは……」

 国王様の言葉に対して、アデルバ様は首を横に振った。
 ただ、カルメア様は何も言わない。何か考えでもあるのだろうか。
 しかしこの謁見は、二人を追い詰めるためだけに設けられたものだ。国王様の結論は、実の所既に決まっている。イルヴァド様を新たなウェディバー伯爵とするために、あの二人は責任を取らされるのだ。

「国王様、僕は事実など何も知りませんでした。きっと母上だって同じです。確かに、父上以外の人と関係を持っていたかもしれない。ただ、僕がウェディバー伯爵家の血を継いでいないとは思ってもいなかったことでしょう」
「ほう……」

 アデルバ様は、なんとかこの状況から打開しようとしているようだった。
 当然といえば当然だが、かなり必死の形相だ。そんな彼と比べて、カルメア様は落ち着いている。それが私は、少し気になった。
 もちろん、場慣れしているかしていないかの違いかもしれない。ただあのカルメア様なら、何かしてきそうだと思ってしまうのだ。

「カルメア、お前に聞くとしよう。本当に、アデルバがウェディバー伯爵家の血を継いでいないと思っていなかったのか?」
「……いいえ」
「え?」

 カルメア様の言葉に、アデルバ様は目を丸めていた。
 それは明らかに、予想していなかったことを言われたという感じだ。
 事前に打ち合わせくらいはしているだろうに、カルメア様はそれと違うことを言ったということだろうか。それには一体、どのような意図があるのだろうか。

「もしかしたらそうなのではないかと、ずっと思っていました」
「思っていながら、見逃していたということか?」
「ええ、その通りです」

 国王様の言葉に、アデルバ様はゆっくりと頷いた。
 彼女は、その目で国王様をしっかりと見据えている。何か言いたいことがあるようだ。
< 53 / 80 >

この作品をシェア

pagetop