顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

55.残っていた手紙

「この手紙は、お前がバンダルに宛てて書いた手紙だ。焼却するように記しているようだが、奴はそれを守らなかったようだな。いざという時に、この手紙を残していたようだ」
「なっ、うっ……」
「これらの手紙に記されている文字が、お前の文字であると証明することはそう難しいことではない。自分が書いた手紙ではないなどといっても無駄だぞ?」

 国王様は、容赦のない言葉をカルメア様にかけていた。
 それに彼女は、息を詰まらせている。あの手紙は、それ程にまずいものなのだろうか。

「さて、この手紙に何が書いてあるか、お前も詳しいことは覚えていないかもしれないな。改めて内容を確認するとしようか」
「そ、それは……」
「この手紙には、お前の夫であるオルデンに対する罵倒の言葉が記されている。ラスタリア伯爵夫人への罵倒もだ」

 ラスタリア伯爵夫人――お母様を示すその言葉に、私は少し驚くことになった。
 ただその記述は、お父様やイルヴァド様がしていた推測を裏付けるものである。
 カルメア様には、お母様に対する嫉妬があった。お母様似の私を息子の婚約者として認めなかったことには、やはりその気持ちも関係していたのかもしれない。

「お前は手紙で、この二人に対する復讐を示唆している。オルデンへの復讐は、血が繋がっていないアデルバを伯爵に据えること、ラスタリア伯爵夫人への復讐は、オルデンの婚約を狂わせて、ラスタリア伯爵家を翻弄することだったといえるだろうか。まあ後者については、それ以上のことも考えていたのかもしれないが」

 国王様の視線に、カルメア様は目をそらした。
 ルルメリーナを婚約者として迎え入れた後も、彼女は何かを企てていたのだろうか。
 それは最早、わからないことではある。ただ状況が、カルメア様を追い詰めていることは確かだ。

「そ、そんなものは過去の話です! 確かに一時はそういった思いを抱いたかもしれません。ですが、私も日々を過ごす内に考えを改めたのです。復讐なんて、そんなことは……」
「まだ言い逃れようというのか。その心意気だけは、見事なものだ。お前は中々の曲者だな」
「別に、私はっ……」

 カルメア様は、身を乗り出して反論しようとしていた。
 しかし彼女の口からは、何も言葉が出てこない。それはきっと、段々と状況が理解できてきたからだろう。

 カルメア様は、ゆっくりとアデルバ様の方に視線を向けた。
 彼は不安そうにしている。額からは大量の汗を流しており、最早何かが言える状態ではなさあそうだ。
 それを見てカルメア様は項垂れる。唯一の味方である息子も頼りにならない。そのことに絶望しているのだろう。
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