顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

56.愚かなこと

「さて、アデルバにカルメアよ。お前達二人には罰を与えなければならない。アデルバ、お前は悪意を持って伯爵の地位に就き、この国に混乱をもたらした。カルメア、お前はそれを見過ごした。いやそれ所か、アデルバに加担した。その罪は重いものだと、私は思っている」

 国王様は、ゆっくりと言葉を紡いでいた。
 その言葉に対して、アデルバ様もカルメア様も反論しない。それはつまり、負けを認めたということになる。
 それを確認した国王様は、ゆっくりとため息をついた。そして彼は、手を上げる。それは物陰からずっと成り行きを見ていた私達に対して、出て来るように合図しているということだ。

「なっ……!」
「あなた達はっ……!」

 私はイルヴァド様と顔を見合わせてから、二人で国王様が座る玉座の横に出て行った。
 私達の姿を確認して、アデルバ様とカルメア様は目を丸めて驚いている。
 この場にいるとは、思っていなかったということだろうか。予想できないことという訳でも、ないと思っていたのだが。

「母上、兄上……」
「イルヴァド! 貴様っ! よくも、よくも僕達をっ……!」
「アデルバ! やめなさい!」

 イルヴァド様に対して、アデルバ様は先程まで失っていた闘志を取り戻したようだった。
 彼は勢いよく立ち上がり、イルヴァド様に向かって駆け出そうとする。自分達を陥れた弟に対して、かなりの怒りを覚えているらしい。
 それにカルメア様は、手を伸ばそうとした。しかしそれは、届かない。既にアデルバ様は、駆け出していたのだ。

「お前だけは許さない!」
「イルヴァド様……」
「大丈夫です、リフェリナ嬢」
「え?」

 私は、イルヴァド様に逃げるように言おうと思っていた。
 しかし彼のひどく冷静な、いや悲しそうなその表情に、固まることになった。その表情の意図が、わからなかったからだ。
 ただ、私はそれを直後に理解することになった。辺りに血が飛び散ったからだ。

「おぐっ……」

 アデルバ様の体には、左右から剣に貫かれていた。
 脇から出た騎士らしき二人が、突き刺したということらしい。
 その一瞬の出来事に、私は理解が追いついていなかった。ただ一つ思い出したことは、私とイルヴァド様がどこにいるのかということだ。

 私達は、玉座の隣にいる。その玉座に腰掛けているのは、この国の国王様だ。
 アデルバ様が誰を狙っていたか、それは明白である。だが、状況だけ見れば彼はこの国の最高権力者に食ってかかろうとしているようにも見えるだろう。
 そんなことをしたらどうなるか、そう考えて私は事態を理解することになったのだった。
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