顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

59.プライドのために

「結局の所、母上は自らのプライドのために生きているのかもしれません」
「プライド、ですか?」
「ええ、母上にとって、父上が自分以外の女性に対して愛情を向けていることは、気に食わないことだったのでしょう。そのことに対する報復をずっと考えていたのだと思います」

 カルメア様の考え方は、歪んでいるとしか言いようがない。
 オルデン様の恋心などというものは、些細なことだ。誰にだって、気になる人くらいはいた過去があるだろう。
 オルデン様は、それを引きずっていたという訳でもないはずだ。まさかラスタリア伯爵家と交流を持ち続けていたことが、気に食わなかったとでもいうのだろうか。

「母上は他者を害することしか考えていなかった。それが問題なのだと思います。もっと誰かに寄り添うような心を持っていれば、また違った結果になったはずです」
「そうですね……」

 カルメア様は、自分の憎しみのために生きてきたようなものだ。
 その結果が、今の惨状である。今までの罪を暴かれ、息子を失い、発狂する。そんな結末はなんとも悲惨なものだ。

 それをやったのは私達ラスタリア伯爵家ではある。ただ、そもそもこちらは売られた喧嘩を買ったというだけだ。
 もしも彼女が、オルデン様やお母様に憎しみを向けていなかったら、きっと両家は手を取り合っていただろう。そうならなかったことは、ただただ残念なことだ。

「まあ、母上のことをあれこれと言っても仕方はないのかもしれません。既に終わったことですからね。母上はこれから裁きを受けます。当分、自由はないでしょう」
「ええ、そうですね。それは私達ラスタリア伯爵家にとっては安心できることです」

 国王様の処置は、私達ラスタリア伯爵家にとってとても助かることである。
 今回の件で、カルメア様はその恨みをさらに募らせたことだろう。何をしてくるか、わからないような状態である。それこそ復讐を企てられたりしたら、困る所だった。

「……失礼致します」
「おや……」

 そんなことを話していると、客室の戸が叩かれた。
 恐らく、カルメア様が落ち着いたということだろう。彼女への罰が、言い渡されることになりそうだ。

「どうかされましたか?」
「その、お二人にお知らせがあります」
「はい、なんですか?」
「カルメア様が……亡くなられました」
「……え?」

 使用人らしき男性の言葉に、イルヴァド様は固まっていた。
 もちろん、私も驚いている。その言葉に、あまり実感が持てなかった。
 ただ、冗談でそのようなことは言うはずがない。ということは、本当にカルメア様は亡くなったということなのだろう。
< 59 / 80 >

この作品をシェア

pagetop