顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

6.それぞれの考え

「という訳で、ウェディバー伯爵家はルルメリーナを婚約相手として望んでいるようです」
「……なるほど」

 私の報告に、お父様はため息をついた。
 それは、当然のことだ。お父様にとっても、友達の家族がその意思を無下にしているという事実は、悲しいものだろう。

「下らない提案だ」
「ラヴェルグ……」
「父上、ウェディバー伯爵家の提案などに従うことなどありません。リフェリナのことを侮辱した者達に、ルルメリーナを明け渡すなど俺には許容できません」
「君の気持ちは、よくわかるけれど、少し落ち着いて」

 お兄様は、話を聞いてかなり怒っている。
 言葉通り、私が侮辱されたと強く思っているのだろう。それは私にとっても、嬉しいことだ。

「私も、お兄様に賛成です」
「ルルメリーナ……」
「お姉様と婚約破棄する人と婚約なんてしたくありません。私、お姉様のことは尊敬しているんです。見る目がないって、思ってしまいます」

 珍しいことに、ルルメリーナも少し怒っているようだった。
 兄と妹が、今回の行いに対してそのように思ってくれている。その思いやりが伝わってきて、私の心は少し安らいだ。

「もちろん、僕も今回の件には思う所があるから、あちらの提案になんて乗るつもりはないよ」
「あら? あなたはそんな風に考えているのね?」
「え?」

 お父様は、お兄様とルルメリーナを宥めるように言葉を発していた。
 それに対して、ともすれば冷たい言葉を返したのはお母様だ。その言葉に、お父様はその目を丸めている。

「メルフェリナ、君は僕達とは違う考えだというのかい?」
「ええ、ルルメリーナを嫁がせるべきであると考えています。ウェディバー伯爵家がそうしたいと言っているなら、それを利用させてもらいましょう」
「利用?」
「ええ、詳しいことは、後で話します。ルルメリーナ、まずはあなたと話をさせてもらえるかしら?」
「えー、お母様、怒ったりしませんかぁ?」
「怒らないわよ……怒るようなことをしたなら、別だけれど」

 お母様は、ゆっくりと立ち上がってルルメリーナを連れて出て行った。
 お父様の返答は、特に聞いていない。ただ、多分答えは決まっているだろう。基本的に、お父様はお母様には逆らわないのだから。

「まったく、母上は一体何を考えているのだ……」
「まあ、メルフェリナがああ言っているのだから、何か考えがあるんだろう。そういうことなら、僕もそれに乗らせてもらうことにするよ」

 はっきりと言って、お父様には腹芸の才能などはない。優しすぎるため、そういったことが決してできないのだ。
 だからこそ、こういった時にはお母様の意見が優先される。そしてそれは、大抵の場合上手くいく。故に今回も、そうするつもりなのだろう。
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