顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

60.彼女の最期

 私とイルヴァド様は、カルメア様がいたという客室に来ていた。
 この部屋は、彼女が亡くなった時から特に弄られていないそうだ。強いて言うなら、戸が開けられていることが唯一の変化であるだろう。

 部屋に入って最初に目に入ってきたのは、大きく開かれた窓であった。それを見ただけでこの部屋で何が行われたかは、大体理解できた。
 恐らくカルメア様は、そこから飛び降りたのだろう。それも自らの意思で。

「……母上は自殺した、という訳ですか」
「……ええ、そういうことになるのでしょうね」
「なるほど、兄上を失ったことがそれだけショックだったということでしょうか。いやあるいは、今の自分の状況に絶望したのかもしれませんが……」

 カルメア様が飛び降りた理由は、わからない。色々と予想することはできるが、本人がこうなってしまった以上、はっきりとしたことがわかることはもうないだろう。
 ただカルメア様が、追い詰められていたことは確かだ。置かれている状況的にも精神状態的にも、こうなっても仕方ない状態であったとは思う。

「イルヴァド様……」
「……」

 私は思わず、イルヴァド様の方を見ていていた。
 当然のことながら、今の彼の精神状態が心配だ。色々とあったとはいえ、それでも母親がこんなことになってしまったのだから、アデルバ様の時のようにショックを受けているのではないだろうか。

「……そのような顔をしないでください、リフェリナ嬢。僕なら大丈夫ですから」
「……」
「ことが始まった時から、兄上と母上を追い詰めると決めた時から、このようなことになるかもしれないとは思っていたのです。覚悟はできていました」

 イルヴァド様は、とても真っ直ぐに私の目を見てきた。
 その目からは、彼の確かな意思が伝わってくる。本心から言葉を発してはいるようだ。
 ただ、ショックを受けていない訳ではなさそうである。覚悟を決めているからといって、心が動かないなんてことは、ないということだろう。

「何はともあれ、これで母上に対して罰を与える必要などもなくなったという訳ですね」
「そうですね……二人はその命を持って、償ったということでしょうか」
「死ぬことが償いになるとは、僕には思えませんね。兄上はともかくとしても、母上は逃げたというだけでしょう」

 イルヴァド様は、母親に対して辛辣であった。
 生きてきちんと償って欲しかったということなのだろう。
 結局の所、彼とカルメア様は最後まで分かり合うことができない存在だったのかもしれない。陰りがあるイルヴァド様の表情に、私はそんなことを思うのだった。
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