顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

62.彼の評価

「イルヴァド様のことは、良い人だと思っています。彼は貴族としての自覚を持っている立派な人なのではないでしょうか」
「なるほど」

 とりあえず私は、お父様からの質問に答えてみた。
 お母様が好感が持てると評したように、イルヴァド様は良き人だと思う。
 それはきっと、お父様だって思っていることであるはずだ。イルヴァド様と接した人なら、大抵はそう思うだろう。

 問題は、それを今どうしてお父様が聞いてきているのかということだ。
 話の流れとしても別におかしくない質問ではあるのだが、何かしらの意図が隠されているような気がする。

「まあ、わかっていたことではあるけれど、リフェリナも彼の兄や母のことは気にしていないようだね?」
「それは、どういうことですか?」
「あの二人に侮辱されても、イルファドのことは個人として見ているということを言っているんだ。それには僕も安心できる」
「そんなのは、当然のことです」

 お父様の言葉に、私は少し語気を強めてしまっていた。
 あの二人の悪い印象に引っ張られて、イルヴァド様にも悪い印象を抱く。そのような愚かな考え方をしているのではないかと思われていたことは、正直少し心外だ。
 もう少し娘のことを信用してくれても良いはずである。お父様は、私のことを侮っているのだろうか。

「すまない。念のために確認しておかなければならないと思ってね」
「念のため、ですか?」
「ああ、今回のことを進めるにおいて、君の意思確認は必要なものだった。不快な質問をしてしまって、悪かったね」
「い、いえ……」

 私は、自分の考えをすぐに後悔することになった。
 このお父様が、私のことを理解していないなんてそんなことがあるはずはない。
 それなのに質問をしてきた。私はそれをよく考えるべきだったのだ。答えは既に、なんとなくわかっていたことであるというのに、私はそれを見失ってしまっていた。

「……お父様、一つご質問があります」
「質問? 何かな?」
「もしかしてお父様は、私とイルヴァド様の婚約をお考えですか?」
「……流石にわかってしまうかな?」
「ええ、勘が悪い私でも、そこまで言われればわかりますよ」

 私が発した考えは、イルヴァド様をどう思っているかと聞かれて、頭に過っていたことである。
 その可能性は、今までも何度か考えてはいた。あり得ないことではないと思っていたからだ。
 それらの予想は、やはり間違っていなかったということだろう。私とイルヴァド様の婚約、お父様やお母様はそれを考えているようである。
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