顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

64.訪問への驚き

「正直な所、結構驚いています」

 ウェディバー伯爵家を訪ねた私に対して、イルヴァド様は微妙な表情を浮かべていた。
 私との婚約の話は、お父様を通して既に伝わっている。やはりそのことについては、驚いているのだろうか。

「まさかルルメリーナ嬢が付いて来ているなんて」
「え? ああ……」

 イルヴァド様の言葉に、私は隣にいる妹のことに気付いた。
 確かに、ルルメリーナがここに来るのは急に決まったことではある。驚くのも、当然かもしれない。

「サプライズって、ことですよぉ。驚きましたかぁ、イルヴァド様」
「ええ、驚いています。しかし僕へのサプライズのために、遠路遥々やって来たのですか?」
「まあ、この屋敷にも久し振りに来たいなって思ったので」
「そ、そうなんですか……」

 ルルメリーナの言葉に、イルヴァド様は驚いているようだった。
 それも当然のことだ。私だって、ルルメリーナがそんなことを言い出した時には驚いた。
 このウェディバー伯爵家の屋敷に、思い入れがあったなんて意外だ。アデルバ様やカルメア様のことはそんなに好きではないはずなのだが、それとこれとは話が別ということだろうか。

「……そういえば、使用人の方々は、結構ルルメリーナのことを歓迎していましたね?」
「ああ、それには僕も驚きました」
「えへへ、これでも私、人には好かれるタイプなんですぅ」

 ルルメリーナは、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
 基本的に、この妹は同年代の女子達からはあまり好かれてはいない。好きな人を奪われたとかで、嫌う者が多いのだ。

 ただ、基本的には分け隔てない性格をしているため、使用人の方々には案外嫌われてはいないらしい。気軽な感じで接してくれるため、好感を持ちやすいようだ。
 そういえば、ラスタリアはくしゃく家でもその辺りは上手くやっているような気がする。いや本人には、そんな自覚はないのだろうが。

「まあ何にしても、急な訪問ですみません。ルルメリーナのことを止められなくて……」
「いえ、お気になさらないでください。僕も賑やかな方が楽しいですからね。最近はよくそう思うようになっています」
「イルヴァド様、それは……」

 イルヴァド様は、苦笑いを浮かべていた。
 その表情からは、寂しさというものが伝わってくる。やはりこの広い屋敷に、使用人がいるとはいえたった一人というのは、堪えるものであるのだろう。

「イルヴァド様、それなら私も賑やかにいきますね?」
「お姉様がそうなら、私も賑やかにします」
「え? ええ、ありがとうございます」

 私とルルメリーナの言葉に、イルヴァド様は微妙な表情になった。
 なんというか、空回りしてしまったのだろうか。いや、ここはとにかく明るく振る舞った方がいい。場が落ち込んでも嫌である訳だし。
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