顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

65.暗い雰囲気

「さてと……それで、リフェリナ嬢は今日は婚約の話をしに来たのですよね?」
「あ、そうでした。もちろん、それが本題です」
「なるほど」

 ルルメリーナの来訪という予想外の事態で話がそれた訳ではあるが、私がウェディバー伯爵家を訪ねた理由は、婚約の話をするためだ。
 私は今回、お父様にその話を取りまとめてくるように言われている。お父様としては、今回の婚約は成立させたいものであるらしい。私は、それを前提として話をするのだ。

「紆余曲折ありましたが、ラスタリア伯爵家は改めてウェディバー伯爵家との間に婚約を結びたいと思っています」
「それは僕とリフェリナ嬢との婚約ということですか?」
「ええ、そういうことになります」

 イルヴァド様は、どこかよそよそしい態度であるような気がする。
 それが私は、少し気掛かりであった。ともに暮らしていたイルヴァド様と違うというのは、どうにもやりづらい。
 となると、やはり私の方が明るく振る舞っていくしかないだろうか。一応真剣な話なので中々難しいが、なんとかしていくとしよう。

「ラスタリア伯爵家は、どうしてウェディバー伯爵家との婚約を結びたいのでしょうか?」
「え?」
「正直な所、今のウェディバー伯爵家の状態は良いものとは言えません。ラスタリア伯爵家に利益があるとは思えませんが……」
「それは……」

 明るく振る舞おうと思っていたはずだったが、私は出鼻をくじかれてしまった。
 ウェディバー伯爵家との婚約に対するメリット、それはあまり考えられていないことだった。

 もちろん、お父様が言っていたようなことは言える訳がない。そもそもあれは、建前である。お父様は単純に、イルヴァド様を助けるつもりであるはずだ。
 ただ、使えない部分ばかりという訳ではないかもしれない。色々と真意を隠しながら、理由を作り出していくとしよう。

「確かに今は状態が良いとは言えないかもしれません。しかしそれは一時の話――ウェディバー伯爵家はこれから元の繁栄を取り戻すはずです」
「それは確実なことではありません。ウェディバー伯爵がこのまま沈むこともあるかもしれません。その可能性の方が、高いくらいです」
「そんなことは、ないと思いますが……」

 イルヴァド様との間に、何か壁のようなものを感じる。これはきっと、よくないものだ。
 しばらく会わない内に、彼には何かしらの変化があったのかもしれない。孤独というものによって、不安を抱いていたということだろうか。
 いや、そうではない。イルヴァド様のその目には、かつてと変わらぬ色が宿っている。彼にも何かしらの意図があるということだろう。
< 65 / 80 >

この作品をシェア

pagetop