顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

7.妹の才能

 お母様は、一人で私達の元に戻って来た。
 ルルメリーナの姿はない。彼女は既に、自室に戻ったということだろうか。

「母上、今回は一体何を考えているのか、そろそろ話していただけませんか?」
「ええ、もちろんそのつもりよ? でも、答えはそんなに難しいものという訳でもないの。私は単に、ウェディバー伯爵家に報いを受けてもらうつもりというだけだもの」
「報い、ですか? 母上はウェディバー伯爵家の望みを叶えている訳ですが……」

 お母様に質問をしたのは、お兄様だった。
 私に対してもルルメリーナに対しても、多大な愛を向けるお兄様は、今回の件について納得していないように思える。お母様に対する視線も、どこか鋭いような気がする。

「あの子にはウェディバー伯爵家の内部に張り込んでもらおうと思っているの」
「ルルメリーナに、ですか?」
「ええ、ああ、安心して。ちゃんとノルードやネセリアについて行ってもらうから」
「……ノルードやネセリアは優秀な使用人ではありますが、それでもルルメリーナに腹芸などはできないかと思いますが」

 お母様の言葉に、お兄様は困惑しているようだった。
 それは当然だ。私だって思っている。ルルメリーナには、そういった貴族のあれやこれなんてできないと。
 あの妹はよく言えば純粋で、悪く言えば何も考えていない。服芸なんて持っての他だ。そんなことはできないと思った方がいい。

「大丈夫、あの子には天賦の才があるわ」
「天賦の才?」
「ええ、男を手玉に取る天賦の才よ」
「……それはとても、誇れることではないと思うんですけれど」

 胸を張ってとんでもないことを言ったお母様に、私は思わず言葉をかけていた。
 別に言わんとしていることがわからないという訳でもない。ルルメリーナは、確かに男性には漏れなく大人気だ。
 ただ仮にそうだとしても、ウェディバー伯爵家にはカルメア様もいる訳で、上手くいくとは思えないのだが。

「仮にそうだとしても、ルルメリーナを道具のように扱わないでいただきたいのですが……」
「あら、使えるものは使った方がいいわよ。あなたも、この人に似て甘いわね」
「父上はいいのですか? 母上の論は、ウェディバー伯爵家を追い詰めることになるかもしれませんよ?」
「……まあ、色々と思う所はあるけれど、若き伯爵に舐められたままでは、流石の僕も立つ瀬がないからね。それに彼も、いざとなったら容赦する必要はないと言っていたし」
「なるほど、俺が折れる以外ないという訳ですか……」

 お父様とお母様の言葉に、お兄様はゆっくりとため息をついた。
 ルルメリーナのことを大切に思っているお兄様は、彼女にこのようなことはさせたくないと思っているのだろう。
 そういった所は、お母様の言う通りお兄様の弱さだ。私もルルメリーナも、ラスタリア伯爵家の一員なのだから、もっと顎で使ってくれてもいいものなのだが。
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