顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。

9.心配する兄姉

「……心配だな」
「……心配ですね」

 お兄様の部屋にて、私はお兄様とお茶にしていた。
 ルルメリーナがこのラスタリア伯爵家から出て行ってから、私達は毎日そうしている。議題は当然、妹のことだ。

 私はお兄様と違って、今回の件について反対しているという訳でもない。
 ルルメリーナだって伯爵家の一員なのだから、家のために何かをするということは、必要なことだと思っている。

 しかし心配であるということは、お兄様と同じだ。
 本当に大丈夫なのか。頭の中には、そのような考えが常にある。

「母上も無茶を言う人だ。人には適材適所というものがあるだろうに……」
「お母様は、今回の役目がルルメリーナに適材だと思ったということなのでしょうけれど」
「男を手玉に取る能力か……兄としては複雑な限りだな、そういった能力というものは」
「姉としても複雑ですよ」

 お母様は、私達のことを全うに愛してくれているし、大切に思ってくれていることは確かだ。
 ただ、どこか冷めている所もある。今回の件だってそうだ。ルルメリーナの能力を的確に分析して、彼女にできることをさせようとしている。
 そういった能力は、貴族としては必要なことであるのだろう。その点に関してお兄様は、お父様と同じく優しすぎる所がある。

「まあ、ネセリアやノルードも一緒な訳ですから、なんとかなるのではないでしょうか。あの二人は、ルルメリーナのこともよく知っています」
「もちろん、二人の優秀さは理解している。ただ、前ウェディバー伯爵家夫人カルメアは曲者であると聞いている。当然、二人よりも人生経験はある訳だ。いくらあの二人でも、やり込められる可能性はある」
「そうですね……」

 お兄様の言う通り、カルメア様の存在は気掛かりだ。
 彼女は、とてもルルメリーナにやり込められる相手だとは思えない。ネセリアやノルードといった使用人の手を借りても、それは難しい気がする。
 ただお母様は、その点についても問題と豪語していた。何か考えがあるということなのだろうが、それを明かしてはくれないため、私達としては心配だ。

「でも、お兄様的にはルルメリーナを引き戻す理由が欲しいというだけなような気もしますけれど……」
「む……」
「今更連れ戻すなんてことは、それこそできないと思いますよ?」
「……それはもちろんわかっている。だが、そう簡単なことでもないのだ」

 私の指摘に、お兄様はゆっくりとティーカップを口元に運んだ。
 やはり今回の件が続いている限り、平静ではいられないということなのだろう。それを理解した私は、苦笑いを浮かべるのだった。
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