野獣と噂の王太子と偽りの妃
「プリムローズ様、お食事をどうぞ」

昼の十二時になると、レイチェルはワゴンに載せて食事を運んできた。

「ありがとうございます。いただきます」

両手を組んで目を閉じ、母と神様に祈りを捧げてから、プリムローズはありがたく昼食を食べる。

「まあ、優しい味わいでとても美味しいです。丹精込めて作ってくださったお料理なのですね」

するとレイチェルは意外そうな顔をした。

「え？どうかしましたか？」
「いえ、あの…。こう申してはなんですが、この料理を作ったのは、ここ宮殿では三番手のシェフなのです。食材も最高級のものではございません。それなのに、そのように喜んでいただけるなんて…。シェフに伝えますわ。きっと喜びます」

今度はプリムローズが戸惑う。

「え？王太子殿下のお食事は、国王陛下とは別なのですか？」
「はい。お食事だけでなく、お住いも待遇も。本殿ではなくこの離れにお住まいで、メイドもわたくし一人。お付きも先程のサミュエルだけなのです。生活の何もかもが、王太子殿下らしからぬものですわ」
「それは一体、なぜ？」

レイチェルは、少し視線をそらして言い淀む。

「わたくしからは、何も…。申し訳ありません。メイドの戯言とお忘れくださいませ」

それ以上は話を続けられず、プリムローズはまた食事の手を進めた。
< 10 / 114 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop