野獣と噂の王太子と偽りの妃
食事会が終わり、プリムローズは宮殿のエントランスで家族を見送る。

「あの…。ねえ、プリムローズ」

馬車に乗り込む前に、エステルが戸惑いながらプリムローズを振り返った。

「なあに?エステル」
「ええ、あの…。あなたが家を出て行った時、すぐに帰って来ると思ってたの。野獣と噂の王太子様に、さっさと追い返されるだろうって。でもあなたは、なかなか帰って来なかった。暴力を振るわれたり酷い目に遭っているのかしらって思ってたら、結婚するって聞いて…。そうなのね!って思ったら、今度はシルベーヌで暮らすだなんて」

うつむき加減でぽつりぽつりと話すエステルは、どうやらプリムローズを心配し、寂しくなると感じているらしい。

プリムローズはエステルに微笑んだ。

「大丈夫よ、エステル。シルベーヌで暮らすと言っても、ここから馬で一時間の距離なの。いつでも遊びに来て」

そうなの?!と、エステルは顔を上げる。

「ええ。ぜひ泊まりで遊びに来て。私達、まだまだ話したいことがたくさんあると思うの」
「そうよ!プリムローズがいなくなってから、お見合いさせられたり、パーティーに行かされたり、大変だったんだからね!」
「あら、そうだったの?素敵な人はいた?」
「いないから困ってるの!」
「ふふっ、分かったわ、エステル。今度ゆっくり話を聞くわね」

プリムローズがそう言うと、約束よ?!と念を押して、ようやくエステルは馬車に乗る。

「お父様、お母様、エステル。どうかお元気でね」

遠ざかる馬車を、プリムローズは大きく手を振って見送った。
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