野獣と噂の王太子と偽りの妃
二人で歩む道
五月になり、爽やかな初夏の風が吹く頃。

シルベーヌ国王が改装してくれた宮殿に移住したマルクスとプリムローズは、牧場に来ていた。

「まあ!アンディ。なんて速いのかしら」

囲いの柵が見えないほど広大な牧場は、小高い丘が眼下に広がり、馬や牛、ヤギや羊などが自然の中でのびのびと過ごしていた。

アンディも、まるで飛ぶように生き生きと駆け回る。

「すっかりここでの暮らしを気に入ってくれたようですわね」

プリムローズの言葉に、マルクスもアンディを目で追いながら頷く。

「ああ。今まで狭い厩舎に繋いでいて、悪かったな。それに、ほら。どうやら彼女もできたようだぞ」

ええ?!とプリムローズは、驚いて目を凝らす。

スピードを緩めたアンディに、明るい橙色の綺麗な毛並みの馬が駆け寄った。

二頭は仲良く並んで走り出す。

「え、アンディったら、いつの間に?」
「あはは!なかなかやるよな、アンディのやつ。さてと。デートの邪魔はしたくないが、そろそろ見回りに行かないと」

マルクスが口笛を吹くと、アンディはすぐさま向きを変えてこちらにやって来た。

すると橙色の馬もピタリと寄り添ってついてくる。

「おいおい、彼女さん。ラブラブなところを悪いけど、ちょっとアンディを借りるよ」

だが二頭とも仲良く並んだまま動かない。

「えー?ちょっと、アンディ?」

困ったように眉間にしわを寄せるマルクスに、プリムローズが笑いかけた。

「マルクス様。それなら、わたくしもお供してよろしいですか?」
「ええ?!プリムローズまで…」

困ったように言葉を濁してから、ま、いいか!とマルクスは明るく笑う。

「では、みんなで一緒に遠足といこう」
「はい!」

マルクスはアンディに、プリムローズは橙色の馬に乗って、近くの畑や山へ見回りに出かけた。
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