野獣と噂の王太子と偽りの妃
更に一ヶ月が経つ頃には、マルクスとプリムローズが一緒に敷地を見回るのが日課となっていた。

プリムローズは『オランジェ』と名づけた橙色の馬に乗って、マルクスと仲良くあちこちを訪れる。

オランジェがアンディにピタリと寄り添って走るおかげで、プリムローズの乗馬の腕はメキメキ上達した。

「マルクス様、プリムローズ様!オレンジを持って行ってください」
「まあ、ありがとう!こんなにたくさんもらってもいいの?」
「もちろんです。甘くていいのが実りましたよ」
「美味しそうね。早速搾ってジュースにするわ。本当にありがとう!」

マルクスとプリムローズがシルベーヌの国民に受け入れられるのは、あっという間だった。

シルベーヌの王家は子孫が途絶え、王族は現国王のみ。

国民は皆、国王亡きあとの王家を悲観し、それにより少子化にも拍車が掛かっていた。

そこに現れたマルクスとプリムローズは、カルディナ国王から正式に王家の一員だと発表される。

輝くようなカルディナ国王太子とその妃。

まるで明るい未来が拓けたように、シルベーヌの国民はマルクスとプリムローズを大歓迎した。

人々に笑顔が戻り、活気に満ち溢れ、仕事にも精を出す。

そんなシルベーヌ国に、カルディナ王国からも少しずつ、ここで働きたいという人々が集まって来た。

皆で一緒に農作物を育て、同じ食事をするうちに、国の違いなど関係なくなる。

まるで大家族のように、人々の輪は広がっていった。
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