野獣と噂の王太子と偽りの妃
切り拓いた未来
穏やかに季節が巡り、秋の気配が感じられるようになった頃。

いつものように夕食を食べたあと、マルクスは、ふとプリムローズの様子に目を留めた。

「プリムローズ、おいで」

手を引いてソファに座らせると、ひざまずいてプリムローズの顔を見上げる。

そっと頬に手を当てると、かすかに火照ったような熱さを感じた。

「少し顔が赤い。熱があるんじゃないか?」
「え?いえ、そんなことはありません」
「本当に?どこか具合が悪いところは?」
「大丈夫です。いつもと同じですわ」

そうか…と、マルクスは納得する。

だがその後ベッドに入り、柔らかいプリムローズの身体を抱きしめると、またもや異変を感じた。

「プリムローズ。そなた、やはり少し身体が熱い」

え…?と、プリムローズは戸惑うように顔を上げてマルクスを見つめる。

「自覚はないが、風邪をこじらせたのかもしれん。明日の朝、ドクターを呼ぼう」
「そんな、マルクス様。わたくし本当に大丈夫です」
「いや、だめだ。そなたに何かあってはいけない。さあ、もうゆっくり休め」
「あの…。でしたらわたくしは、別の部屋で休みます。マルクス様に風邪を移してはいけませんから」
「構わん。俺に移してそなたが治るなら、それでいい」
「まさかそんな!いけません、マルクス様」
「つべこべうるさくするなら、口を塞ぐぞ?」

そう言うとマルクスは、プリムローズに優しくキスをする。

「マ、マルクス様!風邪が移ってしまいます」

慌ててマルクスの胸を押して離れるプリムローズを、マルクスは更に強く抱き寄せた。

「そなたに口づけられない方が、俺にとっては辛い」

そしてまたプリムローズの唇を奪う。

「わ、分かりましたから!マルクス様。わたくし、今夜はもう寝ますわ。おやすみなさいませ」

本当に風邪を移してはいけないと、マルクスがこれ以上キスしてこないように、プリムローズはそそくさと背を向けて目をつぶる。

だがマルクスはあっさり後ろからプリムローズを抱きしめると、首筋にチュッと口づけた。

「マルクス様!」

プリムローズは目を見開いて振り返り、マルクスを咎める。

「すまん。そなたが可愛らしくてつい。もう邪魔しないから、ゆっくりおやすみ」
「はい。おやすみなさいませ、マルクス様」
「おやすみ、俺のプリムローズ。良い夢を」

プリムローズはマルクスににっこり微笑んでから、安心したように身体を預けてスーッと眠りに落ちていく。

あどけないその寝顔に愛しさが込み上げ、マルクスはまたしても、プリムローズの頬にそっとキスをした。
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