野獣と噂の王太子と偽りの妃
「ご懐妊ですな」
「はっ?!」

翌朝。
診察を終えたドクターに告げられ、プリムローズとマルクスはポカンとする。

「このまま体調に気をつけて、様子を見てください。赤ん坊が日に日に大きくなれば、更に詳しいことをお伝えできると思います」

それでは…、と頭を下げて部屋を出て行くドクターを、ありがとうございましたと見送る。

パタンとドアが閉まると、プリムローズはおずおずとマルクスの顔を見上げた。

マルクスはプリムローズの肩を抱いたまま、ゆっくりと視線を動かして目を合わせる。

「プリムローズ、そなた…」
「はい」
「お腹の中に、赤ん坊が?」
「そのよう…ですね」

しばしの沈黙のあと、マルクスはこれ以上ないほど満面の笑みで声を弾ませた。

「やったな!プリムローズ。俺達の赤ん坊が、そなたのお腹に…」

そこまで言うと、急に目を潤ませる。

「プリムローズ、俺、嬉しくて、信じられなくて…。俺に子どもができるんだ。プリムローズとの子どもが」

マルクス様…と、プリムローズも涙をこらえる。

「わたくしも、信じられないくらい嬉しいです。マルクス様と結婚できて、子どもも生まれてきてくれるなんて。マルクス様との赤ちゃんが、今ここに?」

プリムローズがそっとお腹に手を当てると、その手を上からマルクスが包み込んだ。

「母を知らずに育ったわたくしが、母になるなんて」

そう口にすると、ほんの少しだけ不安な気持ちも芽生えてくる。

だがマルクスに抱きしめられ、そんな気持ちはすぐに消えた。

「大切に育てていこう。俺が必ずそなたとこの子を守るから。賑やかで幸せな家族になろう、プリムローズ」
「はい、マルクス様」

プリムローズは温かく大きなマルクスの腕に包まれ、湧き上がる幸せを噛みしめていた。
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