野獣と噂の王太子と偽りの妃
「…マルクス様」

真夜中の二時。
ベッドの中でかすかに聞こえてきた声に、マルクスはハッとして目を覚ます。

腕枕していたプリムローズをすぐさま抱き寄せて、顔を覗き込んだ。

「どうした?プリムローズ」
「はい、あの。お腹が張ってきて、痛みの波が…」
「えっ」

マルクスは身体を起こすと、ベッドサイドのランプを点けてプリムローズの様子をうかがう。

お腹に手を当てると、いつもより固く感じられた。

さっきは普通にしゃべっていたプリムローズが、急に何かをこらえるようにキュッと眉根を寄せる。

「陣痛だな。すぐにドクターを呼ぶ」

マルクスは、レイチェルとサミュエルの部屋をノックし、ドクターを呼んでくれと伝えると、すぐさまプリムローズのもとへ戻った。

「プリムローズ、今ドクターを呼んだ。レイチェルも来てくれるからな」
「はい」

マルクスはプリムローズの頭を優しくなでる。

「すまない、代わってやれなくて」

沈痛な面持ちのマルクスに、プリムローズは微笑んで首を振った。

「いいえ。わたくしが必ず無事に赤ちゃんを生みます。マルクス様とわたくしの大切な命を」
「ありがとう、プリムローズ」
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