野獣と噂の王太子と偽りの妃
「俺の…せいなんです」

やがて静けさの中、ポツリと呟いたサミュエルを、プリムローズとレイチェルが振り返る。

「どうしたの?サミュエル。なぜそんなことを言うの?」

レイチェルがそっと声をかけると、サミュエルは唇を噛みしめて苦しそうに顔を歪めた。

「殿下にこんなケガを負わせたのは俺なんだ。あの時、国境の警備隊と合流して敵の動向を探っていたら、背後から敵が襲ってきたんだ。油断していた俺は、すぐには反応できなかった。剣を振りかざした相手に、やられる!と咄嗟に目をつむった。次に目を開けた時には、俺をかばって、殿下が…」

その先は言葉を続けられずに、サミュエルは両手の拳を握りしめて唇を震わせる。

「この命に代えても殿下をお守りするはずの俺が、殿下にこんなケガを…。なんてことをしたんだ、俺は。どうやってお詫びをすればいいのか…。殿下に万一のことがあれば、俺は死んでお詫びを…」
「バカなこと言わないで!」

レイチェルがサミュエルの両肩を掴んで、鋭く言い放つ。

「そんなことをしたって、なんのお詫びにもならないわ。あなたが死んで殿下が喜ぶとでも思ってるの?このバカ者が!って怒られるに決まってるわ。あなたはこれからもずっと、殿下のそばで殿下を支え続けなければいけないはずよ。そうでしょう?サミュエル」
「…レイチェル」

サミュエルは目を潤ませると、しっかりと頷いた。

「ああ、そうだな。今度こそ必ず俺は殿下をお守りする。これからもずっと殿下のそばにいなければ」
「ええ、そうよ。それに殿下に万一のことなんてないわ。まずはしっかり看病しましょう。少しでも早く、回復していただけるように」
「分かった。ありがとう、レイチェル」

しっかりと頷き合う二人に、プリムローズも目頭を熱くする。

(私もできる限りのことをしよう)

自然とそんな気持ちが湧いてきて、プリムローズはまた王太子のタオルを冷やし直した。
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