野獣と噂の王太子と偽りの妃
「プリムローズ様。夕食をどうぞ」
「ありがとうございます」

レイチェルが運んできた料理を前に、プリムローズはいつものように両手を組んで目を閉じる。

(天国のお母様、どうぞ王太子殿下をお守りください。少しでも早く回復されて、レイチェルとサミュエルも笑顔になりますように)

そしてありがたく美味しい料理を味わった。

夜が更けると三人で仮眠を取りながら、交代で王太子の看病をする。

真夜中の三時を過ぎた頃。
レイチェルとサミュエルがソファにもたれてウトウトと眠るかたわら、プリムローズは王太子の呼吸が再び荒くなってきたことに気づいた。

額に手を当てると、少し落ち着いていた熱がかなり上がってきているようだった。

(どうしよう。やっぱり薬を飲んでいないからかしら)

ドクターに渡された薬を飲ませたくても、王太子はずっと眠り続けている。

(どうにかして、少しでも目を覚ましてくだされば…)

そう思っていると王太子が苦しげに、うっ…と声をもらしながら身をよじった。

「殿下?王太子殿下!」

顔を覗き込んで呼びかけると、王太子はかすかに目を開く。

「殿下!わたくしの声が聞こえますか?お薬を飲んでいただきたいのです」

必死に声をかけるが、熱に浮かされているのか、王太子は視線を彷徨わせてぼんやりとしたままだ。

「殿下、お薬です」

プリムローズは王太子の頭の後ろに腕を回すと、わずかに開いている唇から錠剤を口に入れた。

「殿下、お水を」

そう言って口元にグラスを当てて傾けるが、水は王太子の口からこぼれて首筋へと流れてしまう。

プリムローズは意を決すると、グラスの水を自らの口に含み、王太子に深く口づけた。

(どうか飲んで…)

王太子は驚いたように一瞬身を固くしたあと、ゴクリと喉を鳴らして水を飲み込む。

(よかった…)

ホッとしながら、プリムローズはそっと王太子の頭を枕に戻した。
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