野獣と噂の王太子と偽りの妃
偽りの妃候補
朝日が射し込む眩しさを感じて、ソファにもたれて眠っていたプリムローズはゆっくりと目を開ける。

「プリムローズ様?お目覚めですか?」

レイチェルの声にハッとして身体を起すと、プリムローズはすぐさま王太子のいるソファに目をやった。

「王太子殿下は?」
「大丈夫です。すっかり熱も治まりました。まだ眠っていらっしゃいますが、ひと安心ですわ」
「よかった…」

プリムローズはホッと胸をなで下ろす。

「それより、プリムローズ様は大丈夫ですか?ずっと看病してくださって、あまりお休みになれなかったでしょう?」

心配そうに尋ねるレイチェルに、微笑みながら首を振る。

「いいえ、いつの間にかわたくしも眠っておりましたから」

するとサミュエルも真剣に口を開いた。

「プリムローズ様には大変ご迷惑をおかけしました。少しお部屋でお休みください。落ち着かれたら、私が責任を持ってお屋敷までお送りいたします」
「あ、それは、その…」

ここに留まりたいと王太子にお願いするはずだったことを思い出し、プリムローズはうつむいてどうしたものかと考え込む。

その時、ん…と小さく呟いて、王太子がゆっくりと目を開けた。

「殿下!気がつかれましたか?」

サミュエルが急いでそばに駆け寄る。
王太子は辺りに視線を動かしてからサミュエルを見た。

「…サミュエルか。一体ここは?俺はどうしたんだ?」
「殿下が私をかばってケガを負われたのです。本当に申し訳ありませんでした」
「ああ、そうか。思い出した。お前は無事なのか?」
「殿下…。私のことなど心配なさらないでください。殿下のおかげで私は無傷です。殿下をお守りするどころか、ケガを負わせてしまったふがいない私を、この役立たずめと、どうぞお叱りください」
「何を言う。俺の方こそ、お前をいつも危ない目に遭わせてしまってすまない。お前が無事で何よりだ」

殿下…と、サミュエルは言葉を詰まらせて涙をこらえる。

しばらく二人を見守っていたレイチェルが、ソファに歩み寄って王太子のそばにひざまずいた。

「王太子殿下、スープだけでも召し上がってください。そのあとにお薬も」
「ああ、分かった」

サミュエルが王太子の頭を支えて浮かせると、プリムローズは素早くその下にクッションを差し入れた。

レイチェルがスープのカップを近づけ、王太子はスプーンを右手で持つ。
だがどうやら手に力が入らないのだろう。
思うようにスープをすくうことができない。

プリムローズは代わりにスプーンを持ち、スープをすくって王太子の口元に運んだ。

「そ、そなたは誰だ?」

王太子は戸惑いながら顔をそむける。

「プリムローズでございます。さあ、スープをどうぞ」
「いらん!自分でできる」
「体力が落ちている今の状態なら、全部飲むのに小一時間はかかりますわ。またお疲れになって寝込んでしまわれます。少しでも早く回復されたいのでしたら、このまま飲んでくださいませ」

そう言ってもう一度口元にスプーンを運ぶと、王太子は渋々といったように口を開けた。
プリムローズはゆっくりと王太子にスープを飲ませる。

真剣なプリムローズとは対照的に、王太子とレイチェル、サミュエルの三人は、なんとも言えないむずかゆさを感じていた。
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