野獣と噂の王太子と偽りの妃
夜になり夕食を済ませると、プリムローズはマルクスの左腕の傷を消毒し、ガーゼを取り替える。

「まだ痛みはありますか?」

包帯を巻きながらプリムローズが尋ねると、マルクスは、いや、と首を振った。

「もうすっかり良くなった」
「それは何よりです。けれど、まだ無理はなさいませんように」
「ああ」

頷いてから、マルクスはプリムローズに目を向ける。

手際良く、丁寧に包帯を巻く伏し目がちのプリムローズは、表情も穏やかで美しく、マルクスは自然と目が離せなくなった。

包帯を巻き終わると、最後にプリムローズはそっと優しく両手で患部を包み込む。

(早く良くなりますように)

目を閉じて祈ってから、プリムローズは顔を上げてマルクスに微笑みかける。

微笑み返そうとするもうまく笑顔が作れず、マルクスは思わず視線をそらした。
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