野獣と噂の王太子と偽りの妃
プリムローズを妃候補として選んだ、と国王に伝えたおかげで、令嬢達の訪問がピタリとなくなり、マルクスはホッとしていた。

「そなたのおかげで助かった、プリムローズ」
「いえ、そんな。わたくしの方こそ、ここに置いていただいてありがとうございます。ですが本当にわたくし、国王陛下にご挨拶にうかがわなくてもよろしいのでしょうか?」

プリムローズはそのことがずっと気になっていた。

「大丈夫だ。俺からうまく言っておく。そなたは偽りの妃候補でいずれここを出て行くのだから、その必要はない」

マルクスの言葉になぜだか少し寂しくなりながらも、プリムローズは、ありがとうございますと頭を下げる。

マルクスは表情を引き締めて言葉を続けた。

「国王は俺に伯爵令嬢と結婚して、婿入りすることを望んでいたんだ。つまりここから追い出すのが目的だ。だが、俺は今ここを離れる訳にはいかない」

マルクスのその言葉の意味を、今のプリムローズは理解できる。

ここで過ごすうちに分かってきたことがあるからだ。

ここカルディナ王国は、戦争にも無縁で平和な国だと思っていたのだが、それは我が国の国境警備隊のおかげだったのだ。

国境を超えて侵略してこようとする敵を、国境警備隊が日々阻止している。

そしてマルクスは毎日あちこちの国境に赴き、隊員と共に戦い、的確に指示を出し、隊員達を鼓舞している。

マルクスのおかげで、隊員達も使命を持って任務に臨めるのだと、サミュエルが話していた。

(私はなんと無知で世間知らずだったのだろう。のほほんと呑気に暮らしていたのが恥ずかしい)

そう思いながら、プリムローズは毎日マルクスのサポートに尽くしていた。
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