野獣と噂の王太子と偽りの妃
「お出かけなんて、久しぶり!」

部屋に戻ると、プリムローズはウキウキと支度を始めた。

「ふふっ。プリムローズ様のそんな楽しそうなお姿、初めて拝見しますわ。さあ、ドレスはどれになさいますか?」

レイチェルに聞かれてプリムローズは思案する。

普段着ているシンプルなものでよいと思っていたが、マルクスと一緒だと思うとやはり質素ではいけない気がした。

「うーん… 、レイチェルはどれがいいと思う?」
「そうですわね。わたくしはやはり、最初にお召しになっていた、この薄紅色の綺麗なドレスが好きですわ。プリムローズ様によくお似合いです」
「そうかしら。それならそうするわ」
「はい。髪型はわたくしが整えて差し上げますね」

ドレスに着替えると、レイチェルはプリムローズをドレッサーの前に座らせて、ブラシで髪を梳く。

「プリムローズ様の髪、艷やかでサラサラで本当にお綺麗ですわね」
「そう?妹が見事な黄金色で、私はそれが羨ましかったけれど」
「プリムローズ様の髪の色、わたくしはとても好きですわ。温かみのある飴色で、お優しいプリムローズ様の雰囲気そのものです」
「え、そんな。ありがとう、レイチェル」

照れながらお礼を言い、プリムローズは鏡の中の自分を見つめる。

レイチェルは器用にプリムローズの髪の左右を編み込み、ハーフアップでまとめると、毛先をくるんと内側に巻いて華やかに仕上げてくれた。

「さあ、ではまいりましょうか。殿下もお待ちです」

レイチェルと二人でエントランスに下りると、およそ王家らしからぬごく普通の馬車が止まっていた。

サミュエルと言葉を交わしているマルクスも、普段の軍服ではなく、白いシャツにスラックス姿だった。

「お待たせいたしました」

レイチェルが声をかけると、二人は振り返って驚いたように目を見開く。

「プリムローズ様、とてもお綺麗ですね」
「そ、そうかしら?ありがとう、サミュエル」

なんだか居心地が悪くなりうつむいていると、マルクスが手を差し伸べる。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

プリムローズはマルクスの手を借りて、サミュエルが開けた扉から馬車に乗り込んだ。

続いてマルクスも隣に座り、御者台に回ったサミュエルが声をかける。

「それでは出発いたします」

動き出した馬車から、プリムローズはレイチェルに手を振った。

「レイチェル、行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、王太子殿下。プリムローズ様」
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