野獣と噂の王太子と偽りの妃
宮殿の大きな門扉を出てしばらくすると、窓の外に賑やかな街並みが見えてきた。

プリムローズは思わず窓の方へと身を乗り出す。

「そんなに珍しいか?」

マルクスの問いにプリムローズは頷いた。

「ええ。わたくしの住んでいた田舎とは大違いですわ。素敵なお店が並んでいて、人々の装いも華やかで。オシャレなカフェやレストランもあるのですね」
「それなら、ランチはどこかカフェで食べるか?」
「よろしいのですか?!」

目を輝かせるプリムローズに、マルクスは、ふっと笑って頷く。

「もちろん。その前にそなたのドレスを買おう」
「いえ、ですからそれは…」

断るプリムローズに構わず、マルクスは大きなブティックの前で馬車を止めさせると、プリムローズを店内に促した。

「どれでも好きなものを選べ」
「いえ、そんな。わたくしのものなど何も…」
「その為に来たのだぞ?まったく…」

小さくため息をつくと、マルクスは店員に声をかけ、プリムローズに似合うドレスを見繕うよう頼んだ。

「お嬢様には、明るい色がお似合いになるかと。水色のこちらのドレスはいかがですか?素材もふわりと軽く、爽やかな印象でございます。あとは、光沢のあるシルク素材の薄紫色のドレスも。それからこちらはいかがでしょう?温かみのあるオレンジ色で、シルクオーガンジーが何層も重ねてある、ゴージャスで凝ったデザインのドレスですわ」

次々とハンガーを掲げてみせる店員に、マルクスは大きく頷く。

「いいな。全てもらおう」
「ありがとうございます!」

プリムローズは慌ててマルクスの袖を後ろから引っ張った。

「ん?どうした?」

上機嫌で笑みを浮かべている店員に聞こえないよう、プリムローズは背伸びをしてマルクスの耳元に顔を寄せる。

「こんなにたくさん、いけません!マルクス様」
「なぜだ?」
「なぜって…。わたくしには必要ないからです」
「必要ない?ではそなたは服を着ないのか?」
「い、いえ、そういう意味ではなく。今ある物で足りておりますので」
「それなら俺の為に買おう。そなたがこのドレスを着ているところを見てみたい」

ええ?!と困惑しつつ、プリムローズはふとオレンジ色のドレスに目をやる。

「あっ、それほどマルクス様はオレンジがお好きなのですか?オレンジのマスコットキャラクターとか?」

ぶっ!とマルクスは思わず吹き出す。

「そなたがオレンジの妖精にでもなるのか?ははは!それもいいな。オランジェちゃん、とでも呼ぼうか」
「マルクス様!」

顔を赤くして抗議するもあっさりと聞き流され、結局全てのドレスが馬車に運び込まれた。
< 25 / 114 >

この作品をシェア

pagetop