野獣と噂の王太子と偽りの妃
王太子同士
プリムローズが宮殿の離れに来てから二ヶ月が経ち、日に日に冬の寒さが感じられるようになってきた。

「では、本殿に行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」

大きな地図を小脇に抱えたサミュエルとマルクスは、その日宮殿で国王以下主要な大臣や宰相達との会議に出席することになっていた。

二人を見送ったプリムローズは、テーブルの上の食器を片付けながらレイチェルに聞いてみる。

「ねえ、レイチェル。今日の会議はどんな内容なの?」
「おそらく軍事的な作戦会議ですわ。サミュエルの話ですと、北のギルガ王国の攻撃が激しくなっているそうです。我がカルディナ王国は、国境警備隊を強化したおかげでそこまで激しく侵略されておりませんが、同じく北に位置する、ギルガ王国の隣のシルベーヌ国が、ギルガに激しく攻め入られているようなのです」
「まあ!シルベーヌ国が?」

シルベーヌは、海に面した広大な領地に畑や牧場が多くあり、家畜や農作物、漁業で自給自足を実現している豊かな国だ。

国王も平和主義者で、国民も幸せな暮らしを送っている印象だった。

「あのシルベーヌ国が、ギルガに攻撃されているというの?」
「ええ。シルベーヌ国は少子高齢化が進み、戦える若者が少なくなっています。人口も減り、軍事力は圧倒的にギルガの方が上です。そこに付け入って、ギルガは一気にシルベーヌに攻め入り、広大なあの土地を我が物にしようとしているそうですわ」

なんてこと…と、プリムローズは言葉を失う。

「私の知らないところでそんなことが…。ではシルベーヌの国民は、今も不安に怯えた日々を過ごしているのね」
「はい。王太子殿下はその状況を目の当たりにして、何とかギルガを止めたいと、今日の会議で提案されるようです」
「そう…」

プリムローズは、先程見送ったマルクスの姿を思い出す。

(キリッと表情を引き締めていらしたマルクス様を、私はなんと呑気に笑って見送ってしまったのかしら)

己の行いが恥ずかしくなり、何か少しでも自分にできることはないものかと考えを巡らせる。

だがいくら考えても、自分の無知と無能さに打ちのめされるばかりだった。
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