野獣と噂の王太子と偽りの妃
「マルクス」

会議を終えて部屋を出ると、後ろから呼び止められてマルクスは振り返る。

カルロスがニヤリとしながら近づいてきた。

金髪を肩まで伸ばし、仕立ての良いジャケットとピカピカに磨かれた先の尖った靴。

いかにもモテそうな王太子、といった雰囲気で、ゆったりとマルクスの前に立ちはだかる。

「これからしばらくよろしく頼むよ。乗り気でないのはお互い様だろ?俺だって嫌だよ、お前と行動を共にするなんて。だが、次期国王になる俺にとっては避けて通れない。仕方なく我慢するよ」

そしてマルクスの肩に手を載せ、嫌味を含んで耳元でささやく。

「よろしく、兄上様」

フッと笑いを残して去っていくカルロスの後ろ姿を、マルクスは無言で見つめていた。
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