野獣と噂の王太子と偽りの妃
(ここはどこ?私、一体どうしたのかしら)

ぼんやりと意識が戻ってきて、プリムローズは辺りの様子をうかがおうとした。

だが、何も見えず、身体も動かない。

(えっ?!これって、まさか)

意識がはっきりすると、ようやく状況を理解した。

と同時に一気に青ざめる。

プリムローズは両手と両足を縄で縛られたまま床に転がされ、口にも布を、更に目隠しまでされていた。

(どうして、誰がこんなことを。助けて、マルクス様!)

思わず目に涙が滲む。

その時、かすかに話し声が聞こえてきた。

プリムローズは固唾を飲んで聞き耳を立てる。

「そろそろ暗くなってきたし、移動始めるか?」
「そうだな。暗がりに紛れて国境まで行き、味方と合流してから国境を越えよう」
「はいよ。じゃあとにかく出発するぞ」
「ああ。あまり目立たないようにな」

男が二人、ひそひそとささやき合ったあと、ガタンと身体に衝撃が伝わった。

思わずビクッとすると、そのあとはガタゴトと一定のリズムが刻まれる。

プリムローズは冷静に考えを巡らせた。

(ここはきっと馬車の荷車ね。時刻は夕方頃。これから国境へ向かって味方と合流する。ということは、おそらく私はギルガ王国の男二人にさらわれたのね)

そうに違いない。
ではこれからどうするか。

(落ち着いて、落ち着くのよ。きっとマルクス様が助けに来てくださるわ。それまでの辛抱よ)

己を励まし、今できることを考える。

(せめて、手か足が自由になれば)

そう思って身をよじるが、縄はびくともしない。

後ろ手に縛られている両手をグッと動かしてみても、手首が痛くなるばかりだった。

(あー、痛い!やっぱり縄はを解くのは無理かしら)

諦めようとした時、ふと手が何かに触れた。

手探りであちこち触ってみると、やがてチクリと何かが指に刺さって顔をしかめる。

(何かしら。床から飛び出した釘?それとも杭?あ、血が出てきちゃった)

指にツーッと血が伝う感触があって、また顔をしかめるが、ふとあることが閃いた。

(これ、なんだか尖ってるのね。縄をこすりつけたら切れるかも?)

とにかくやってみようと、プリムローズはそっと手で確かめたあと、鋭利な先端に縄を押し当てる。

そしてひたすら手を動かして、縄をこすり続けた。
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