野獣と噂の王太子と偽りの妃
「そろそろ国境に着くか?」
「そうだな、もうじきだ」

そんな声が聞こえてきて、プリムローズは焦る。

まだ縄は完全に切れていない。

今、敵が仲間と合流すれば、逃げる機会はなくなるだろう。

(お願い、切れて!)

最後の力を振り絞っていると、プツンという感覚のあと、ハラリと縄が緩んだ。

(切れた!)

急いで縄を振り落とし、口と目を覆ってある布を取る。

やはりそこは薄暗い馬車の荷車の中だった。

(あとはこの足の縄を…)

結び目が固く、手もかすかに震えていて焦るが、なんとか解けてホッとする。

(さあ、ここから飛び降りよう)

プリムローズは急いで荷車の後ろの扉を開けようと、カンヌキに手をかける。

だが、カンヌキを抜いて扉を押しても、一向に開かない。

(どうして?)

押したり引いたりしてみるが、少し隙間ができるだけで、やはり扉は動かなかった。

(開かないように、外から縄で固定してあるんだわ。どうしよう、どうすれば…)

何か道具はないかと辺りを見渡すが、暗くてよく見えない。

焦りながらも手探りで必死に探す。

(神様、お母様!お願い、マルクス様に会わせて!マルクス様のところに帰りたい!)

込み上げる涙を懸命にこらえて、心の中で願った時だった。
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