野獣と噂の王太子と偽りの妃
翌朝。
朝陽が昇り切る前にマルクスは部屋を出た。

「プリムローズは?」

廊下を歩きながらレイチェルに尋ねると、レイチェルは重苦しい雰囲気で答える。

「一晩中泣き続けておいででした。先程、ようやく泣き疲れて眠られたようです」
「そうか」

プリムローズの部屋の前まで来ると足を止め、少しためらってからゆっくりとドアを開ける。

暗い部屋を横切ってベッドに近づくと、プリムローズは目を泣き腫らし、頬に涙のあとを残しながら眠っていた。

(プリムローズ、ありがとう。どうか幸せにな)

そっと髪をなでながらプリムローズの顔を目に焼きつけると、マルクスは迷いを振り切るように背を向けてドアを出た。

「王家の馬車が九時に迎えに来る。プリムローズを伯爵家まで送り届けるよう、手配した。レイチェル、見送りをよろしく頼む」
「かしこまりました」

朝靄の中、ひっそりと出かけるマルクスとサミュエルを、レイチェルは深々とお辞儀をして見送った。
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