野獣と噂の王太子と偽りの妃
馬車が大きくカーブしてレイチェルの姿が見えなくなると、プリムローズは座り直して正面を向く。

これから家に帰るのだと思うと、気が重かった。

(突然帰って来た私を見て、みんなびっくりするでしょうね。それにお母様やエステルをがっかりさせてしまうわ。やはり、どうにかしてまた家を出よう。どこかに住み込みで働き口はないかしら?)

そんなことを考えていると、馬車がスピードを落としてからガタンと止まった。

道路に出る前に一旦停止しただけだと思っていたら、いきなり横の扉が開いてプリムローズは驚く。

「え?あの…」
「どうぞ、お降りください」

御者が頭を下げてからそう言い、プリムローズに手を差し伸べた。

事態が飲み込めないまま、とにかくプリムローズは手を借りて馬車を降りる。

「お待ちしておりました、プリムローズ様」
「えっ?!」

顔を上げると、侍女が三人深々とお辞儀をしている。

「ここは一体…」

プリムローズは大きくて高さのある重厚な扉を見上げた。

「もしかして、宮殿?」
「はい。こちらが本殿のエントランスでございます」
「え、いえ、あの。なぜここに?」

思わず尋ねるが、侍女達はそれには答えずにプリムローズを中へと促す。

「どうぞお入りくださいませ」

仕方なくプリムローズは扉の中に足を踏み入れた。
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