野獣と噂の王太子と偽りの妃
寂しさを胸に
「プリムローズ様。どうぞこちらのお部屋をお使いください。すぐに紅茶とケーキをお持ちします」
「あ、はい!あの、どうぞお構いなく」

ここはプリンセスのお部屋?と思いながら、プリムローズは案内された部屋の中をキョロキョロと見回した。

壁紙や家具は薄いピンクとクリーム色でまとめられ、広い部屋の真ん中に置かれているのは豪華なソファセット。

壁際のベッドは天蓋つきで、一人で寝るには大きすぎる。

壁一面の窓からバルコニーに出られるようで、その先には綺麗に幾何学模様を描く見事な庭園が広がっていた。

「プリムローズ様、あとでクローゼットにドレスをお持ちします。いつでもお好きな時にお着替えくださいませ。他に何かご入用のものはございますか?」

侍女に聞かれて、プリムローズはブンブンと首を横に振る。

「何もありませんわ。充分過ぎます」
「かしこまりました。ではどうぞ、ごゆっくり」

侍女達は丁寧にお辞儀をしてから退出する。

プリムローズは、高級なティーカップで紅茶を味わいつつ、小さくため息をついた。

(どんなに美味しくても、一人で飲んでは寂しいだけね)

サミュエルとレイチェル、そしてマルクスと四人で、ガーデンで過ごしたティータイムを思い出す。

(楽しかったなあ。マルクス様、いつも私の作ったお菓子を美味しそうに食べてくださって。一番お好きなのは、オレンジタルトかしら?ううん、どれも美味しいと言ってくださったわよね。次はオレンジピールチョコレートを作るお約束だったのに)

気がつけばマルクスのことばかり考えてしまい、プリムローズはケーキを食べる手を止めて、またため息をついた。
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