野獣と噂の王太子と偽りの妃
「王太子殿下におかれましては、ご機嫌麗しく。初めまして。ローレン家からまいりました、プリムローズ=ローレンと申します。お招きいただき、大変光栄に存じます」

シン…と静まり返る中、プリムローズはひたすら頭を下げ続ける。

何か反応がない限り、こちらから動いたり更に言葉を発することは許されない。

そう思ってひたすら待つが、いつまで経っても王太子は口を開く素振りもない。

(あら?私、挨拶したと思ったけれど、気のせいだったかしら?)

真顔でそんなことを考えていると、ようやく低い声が響いた。

「勘違いするな」

…は?とプリムローズは心の中で首をひねる。

(やっぱりまだ挨拶していなかったのかしら?)

すると再びよく響く低い声がした。

「私はそなたを招いた覚えはない。なんとそそのかされて来たのか知らんが、妃候補だなどと思っているなら大きな間違いだ。だがこちらが迷惑をかけたことは認め、迷惑料として金貨五十枚を授ける。それを持ってとっとと帰れ」

うつむいたまま、プリムローズはまばたきを繰り返す。

(え?何がどうなって…)

「聞こえなかったのか?この話は破談だ」

ようやくプリムローズはゆっくりと顔を上げる。

「あの…、破断の理由というのは?」

小さく尋ねると、王太子がギッ…と椅子の向きを変えてこちらを見た。

深海のような深い碧色の髪に、切れ長で鋭い漆黒の瞳。
スッと通った鼻筋とシャープなフェイスライン。

「…理由は」

王太子と目が合った。

「性格の不一致だ」
< 6 / 114 >

この作品をシェア

pagetop