野獣と噂の王太子と偽りの妃
「国王陛下、並びに王妃陛下、王太子殿下のお出ましでございます」

ダイニングルームで執事に告げられ、プリムローズは席を立つ。

頭を下げて待っていると、三人が大きなテーブルの前まで来る気配がした。

「やあ、プリムローズ。待たせたね」

国王が明るい口調で話しかけてきた。

プリムローズは視線を下げたまま挨拶する。

「国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく。今夜はお招きいただき、大変光栄に存じます。王妃陛下、王太子殿下。お初にお目にかかります。プリムローズ=ローレンと申します」

そして深々と頭を下げた。

「固い挨拶は抜きだ。顔を上げなさい、プリムローズ」
「はい、失礼いたします」

ゆっくりと顔を上げると、にこやかな国王と目が合い、ホッとする。

その隣に目を転じると、美しく品のある女性と、気取った雰囲気の若い男性がこちらを見ていた。

プリムローズはもう一度挨拶して頭を下げる。

「王妃陛下、王太子殿下。お目にかかれて大変光栄に存じます」
「あら、若い娘さんだこと。おいくつなの?」

王妃が口元に手をやり、目を細めて声をかけてきた。

その目は笑っているようで、どこか冷たい。

「はい。来月で十八になります、王妃陛下」

すると今度は、王太子が口を開く。

「へえ。伯爵令嬢で十八といったら、もう既に誰か婚約者でもいるの?」
「いえ、あの。そのようなことはございません。王太子殿下」

まあまあと国王が執り成し、一同は席に着いた。

「では早速乾杯しよう。ああ、プリムローズはノンアルコールでね」
「ありがとうございます、国王陛下」
< 60 / 114 >

この作品をシェア

pagetop